白銀花が咲く夢を見る

□第十一訓
2ページ/2ページ



後少しで書類が片付く頃ふと、筆を止めて肩の傷の事を考えてみた、このまま抜糸すると言う事はまた結構な傷跡が残ってしまうだろう

まあ今更傷跡に関しては気にしないがよりにもよって高杉に傷付けられたのはとても腹が立つ、女と知っていて私を傷物にするとは責任を取ってもらわないと

だが相手は高杉だあの遊廓で血走った目で酒だけ飲んでたと言う高杉だ、なにより私は高杉をそんな目で見てないしこれからも見るつもりは無い


「花無為、おい花無為」

「うわッ副長ビックリしたじゃないですか」

「何ボーッとしてんだよ、大丈夫か?」


肩の傷について迷走しながら考えている間に副長に声をかけられていたようだ、副長は私を心配しながら見ていて何かあったのかと聞いてきた

そんな副長に大丈夫だと言い、なにか用かと聞けば副長は思い出したように口を開いた


「いや、晩飯になっても花無為の姿が見えねぇから近藤さんが様子みて来いって」

「えッ!?もうそんな時間ですか!!」

「時間すら忘れる考え事かよ……何考えてたんだよ」

「あ……いや、どうでもいい事です……晩ご飯食べてきます」


副長に言われて時計を見ると、なるほど確かに晩ご飯の時間を少し過ぎている、副長に礼を言って立つと少し足が痺れていた

本当に何時間も考えていたのかと少しゾッとしたと同時にどうでもいいくだらない事にそんな時間を費やした後悔に襲われた

深く溜め息をついて副長と一緒に食堂へと向かった、副長の後ろを歩いているが副長が何も話さないのでどうも居心地が悪い、そう言えば副長には今回の件で随分と迷惑をかけてしまったなと思い私は食堂に着く前に副長に謝ろうと思った

数歩前を歩く副長に追いつくために少し早足で廊下を歩き副長の動きを止めるため制服の袖を摘んだ、動きにくいと感じたのか副長は一歩足を出してからゆっくりと私の方を振り向いた


「……どうした?」


袖にある私の手と私の顔を見比べながら副長は不思議そうにそう言ってきた、私は何故だかとても恥ずかしくなってきてしまった、袖を摘んだのがいけなかったのかもしれないこれではまるで恋人に甘えたい時にやる彼女の行動ではないか

なんて思っても後の祭り、完全に口を開く事を忘れた私を副長は不思議そうに覗き込んできた


「おいさっきからどうした花無為」

「あ……あの……高杉との一件で私、副長に沢山の迷惑をかけてしまったと思うので……その……謝りたいと思って……」


本当に大丈夫かと聞いてきた副長に私はようやく本題について話す事が出来た、途中から副長の顔を見るのが怖くてか細い声になってしまったが副長の耳には届くだろう、地獄耳だから

私が言い終わると副長は黙ってしまった、先程と同じお互い何も話さないために居心地の悪い雰囲気が漂う、言わない方が良かったかもしれない

あまりにも沈黙が続くので私は先程の言動に後悔しつつゆっくりと顔を上げた、すると副長の顔は今までに見た事ない程驚いていた、目を大きく見開いてポカンとしている


「あの……副長?聞こえてますか?」

「あ……ああ、悪い、花無為がまさかそんな事を言うなんて思っても見なかったから」


先程とは立場が逆転したが副長は無事に動き出したようだ、なのでもう一度謝ると副長は乱暴に頭を掻いた後私の頭に手を置いた

少し伏せていた目を上げると副長はほんのりと頬を赤く染めていた、何故そんな顔をすると思った時私の思っていた事が分かっていたかのように副長は乱暴に私の髪を撫で回した

銀時にもやられた事を思い出しデジャヴを感じるが何も言わないでおこう、副長はそのまま私の髪を放置して前を向いたまま


「気にすんな、花無為のそういう所には慣れてる」


と私に言い放った思わず呆然としてしまうが副長はそのまま食堂の方へと向かって行ってしまった、言い逃げもいいところだ

また遅れると何を言われるのか分かったものではないから慌てて副長の後を追った、結局副長に何か言う前に食堂に着いてしまいそれからタイミングも掴めず私は副長に何も言い返せなかった

ただ、副長が言った言葉に喜びを感じたのは事実だ、なんだか仲間として認められた気分になる、私だけが勝手にそう思っていたのではないのだと思えた、だがそれと同時に私が元攘夷志士だと言う事を隠しているのが申し訳なく思えたのも事実だ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ