白銀花が咲く夢を見る
□第一訓
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真選組になってから早数年……今までは名前すら知られてなかった私達も、知らない人がいない程に成長した
何人もの攘夷浪士を取り締まっていく内に私にも自然と決意が固まったのは何年か前の話だ、今となっては近藤さんや土方さんの呼び方も局長と副長と呼ぶようになっている
刀を差して緊急用の携帯もポケットに入れて、私は部屋を出た門の前では副長が立っていて珍しく見送りをしてくれる様だ
「じゃあ、行ってきます」
「ああ、気を付けろよ」
そう言い合って私は屯所を出た、気をつけろなんて珍しい台詞を言うなんてきっと明日は雨だろう、そんな事を思いながら私は見回りを始めた
見回りとは普通二人で行くのだが沖田がサボったから私は一人で行く羽目になった、そんな沖田に少し怒りを覚えながら見回りをしていたがここでサボらない私ではない
怪しい奴がいたらすぐ動けるようにはしているが今はとある公園のベンチに座り絶賛サボリ中だ
「ふぁあ……」
途中コンビニで買ったチューパットを食わえてボーッとしているがこのままじゃいつか私も"まるでダメな仕事をしない男みたいな女"……略して"マダオ"になってしまうかもしれない
そんな事を思いながらチューパットを吸うとひんやりと冷えた心地いい冷たさが口の中に広がった
「定春!!だめアル!!止まってヨ!!」
「定春……?」
のほほんとしている私の耳に慌てた感じの女の子の声が届いた、只事ではないと思い、思わずその方向を見てみると砂煙を巻き上げながら元気良く走り回る巨大な犬がいた
「ええええ!!!?でか!!でっか!!」
犬でも大きい方のラブラドールよりも遥かに大きいその犬は愛くるしい表情をしているがチラリと覗く牙がそれを全て吹き飛ばしている
しかもよく見てみるとこちらに向っていている、慌てて食わえていたチューパットを投げ捨てるがどうやらチューパット目当てではないようだ
来るなと叫ぼうとした途端犬が目の前に来てそのままの勢いで私に齧りついた
「アグッ!!」
「……ォゥ……」
「定春ゥゥゥ!!」
思わず変な声が出たが仕方ない誰でも犬に頭を丸呑みにされたら変な声も出る、この犬の飼い主であろう女の子の声がなんとなく聞こえるが早く出して欲しい
「……お嬢ちゃん、早く取って……これ取って!!」
丸呑みにされながら飼い主らしき女の子に訴えかけると女の子は慌てたように謝りながら私を犬から出してくれた
私の頭からは止まる事を知らないと言わんばかりに血が溢れ出ているが気のせいだと信じたい
コンビニで買ってきたタオルで止血しながら思わず溜め息をついてしまう、コンビニの店員がとても引いていたのを思い出してしまった
そりゃあ誰でも血まみれの客が顔面蒼白でタオルを購入したらあんな表情になるよな……
自嘲的な笑みを浮かべたがその直後私の頭からまた新しい血が溢れてきた、そんな私を覗きながら女の子が声かけてきた
「大丈夫アルか?」
眉毛を下げて申し訳なさそうに言う女の子を見ていると、なんだかこちらが申し訳なくなってしまう
「まあな、これからは気を付けろよ」
「……ごめんなさいアル」
「謝るな、私は大丈夫だから」
申し訳なさそうに謝る女の子にそう言い頭を撫でる、だがここは警察として少し注意をする事にした
「今度からは目を離すなよ、一般の人に食いついたら色んな意味で危ないからな」
そう言うと女の子は強く頷いてくれた、小さい子とかに注意をすると文句を言われるのが普通だがこの子はいい子だ
褒める代わりに無言でまた頭を撫でる、女の子の真っ赤な髪の毛がサラサラと私の手の中で流れた
「ところでお兄さん誰アルか?真っ昼間から公園のベンチで何してるアルか?」
「私?私は……ん?」
女の子の言葉に返事をしようとしたが私はある単語に思わず反応してしまった"お兄さん"と言う単語だ
「?どうしたアルか?お兄さん?」
この隊服と顔なら仕方ない事だがまた"お兄さん"と言う女の子にとりあえず修正をしておく事にした
「……お…お兄さんじゃなくて、お姉さんね……女だからね私は……」
おそらく引きつっているであろう笑顔でそう言う、すると女の子はみるみる驚いた顔に変わっていた
「え!?女だったアルか……ごめんアル……てっきり男だと思って……」
「うん、大丈夫……別に気にしてないから!!」
少し溢れてきた涙を見えないように拭いながら女の子に気にするなと言った、こんな事で泣いているな花無為!!仕方ないのだ!!
自分で自分を励ますと言う悲しい事をしていると
「で、お姉さん誰アルか?」
と女の子が今度はしっかりお姉さんに変えて同じ質問をしてきた
「あぁ……私は真選組に入ってる者だ」
まぁこの隊服見れば分かるだろうけど……と、少し微笑みながらそう言う
すると女の子は少し驚いた顔をしたが凄いと褒めてくれた、だが税金泥棒発言したのは少し傷付いた
女の子の名前は神楽と言うらしく、神楽は出稼ぎでこの地球に来た夜兎という天人らしい、こんな人間らしい天人がいる事に驚いたが、なんとも綺麗な顔をしているので信憑性はある
会話が弾んでしばらく話していたが、楽しい時間はあっと言う間に過ぎる物でいよいよ暗くなってきた
「神楽帰らなくていいのか?もう暗いぞ?」
「大丈夫アルどうせ銀ちゃんとかも心配なんかしないネ」
神楽にそう言うと少し怒ったような声で神楽はそう返してきた、銀ちゃんというのは神楽の保護者みたいな人らしい、なんでも神楽はそこで働いているようだ
心配はしないと言ったがここは真選組、子供を暗い中に放っておけない
「ダメだ子供は夕方には帰らないと……なんなら送ってやろう心配だし」
神楽の言葉に私が慌ててそう言うと、神楽は少し考えるような素振りをしてからベンチから立ち上がり
「……分かったアル帰るネ……バイバイ花無為!!また話そうネ!!」
とすぐに切り替えをして定春と一緒に公園を出て行った
「ああ!!気を付けろよ」
神楽が定春を連れて公園を出て行くのをそう言いながら見送りながら私は屯所に向かって歩いた
それにしても銀ちゃんか……なんか銀時を思い出すな……神楽が言っていた銀ちゃんと言う人物を思い出しながらそう思っていると、屯所の門の前に副長が立っているのが見えた
ヤバイと言うのを直感し、私はそのまま逆方向に全力疾走したがすぐに副長に捕まってしまった、それから沖田と一緒に説教を食らったがすぐに二人でまた逃げた、だが容赦なくその日の晩御飯は抜きにされた