白銀花が咲く夢を見る

□攘夷時代
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私達が戦をしているある時、会いたくて仕方なかった先生にようやく会えた、松下村塾が燃えたあの日と同じように黒い服を着て笠を深く被った奴らに捕まり取り押さえられた私と高杉と桂は、縄で縛られた先生に歩み寄る銀時を見た

連中はどうやら私達に最悪の選択を迫る気らしい、仲間か師かどちらを助けるかと言う選択を連中に言われた銀時に対し高杉は泣き叫ぶ声でやめろと叫んだ

だが私は知っていた、松下村塾が燃えた日先生は銀時に約束をした"皆を頼む"と、だから私はなんとなく分かっていたこれから銀時がする行動を

高杉が叫ぶ中銀時はゆっくりと刀を構えた、それと同時に先生は少しこちらを向いて小さく口を動かした、あまり聞こえなかったが先生の口が動いたのを見て私はなんて言ったか分かった


「ありがとう」


先生はあの約束を守った銀時に対して礼を言った、そして銀時は泣きそうな笑顔で先生を見下ろした後、少し躊躇ったが先生の首をはねた、先生の首がゆっくりと私の視界の隅に転がるのが見えた


「銀時ィィィ!!!!」


その直後高杉が銀時に向かって走り出したが、笠を被った男に短刀を投げられ高杉は地面に伏せった、私は隣で桂が歯を食いしばる音を聞きながらただただ呆然と視界の隅に転がる先生の後頭部をまるで時間が止まったように見ていた


「師に拾ってもらった命、無駄にするものではない」


高杉の左目を潰した笠を被った白髪の男は地面に伏せている高杉にそう言った、師に拾ってもらった命……私はそんなものはあの日、家を飛び出してから捨てたのだ先生を死なせてまで生きたくはなかったが先生は銀時に私達を助けるように約束をした

気が付くと私は涙を流してた、銀時にこんな業を背負わせてしまった事先生を亡くした事……様々な感情がグルグルと駆け巡る中、いつの間にか黒い服の奴らはどこかへ消えていた

縛られていた縄を銀時に解いてもらいゆっくりと立ち上がりフラフラと先生の方へ歩み寄る、銀時の表情は俯いていたので今は見る事は出来なかった、高杉の左目が刀で斬られてしまっていたが今この状況で手当はできないのがもどかしい


「……先……生ェ………?」


何も物を言わず転がっている先生に声をかけるが、その首は目を瞑っているままで動く様子は勿論ない


「……嘘……だろ…?」

「……こんな……」

「…………」


高杉と桂も先生に話しかけたが当然やはり返事は返ってこなかった、銀時はまだ俯いている

高杉は左目の感覚が麻痺しているのか痛んでいる様子は全くない、逆にそれが恐怖心を駆り立てたが今は先生の事で頭がいっぱいだ、胴体のない首だけ……銀時が私達を守るために下した決断の結果だ

銀時はずっと俯いたままで先生に声をかけようともしない、私はそんな銀時が許せなかった先生を殺したからじゃない、先生に声をかけない銀時に腹が立ったのだ

無駄だとは分かっていても、銀時に先生に声をかけて欲しかった、先生に最後にお別れの言葉も込めて……


「………先……生……」


改めて先生の顔を見るとまた涙が溢れ止まらなかった、止めようとも思わなかった、私達四人全員、言葉も下手すると息すらも出来なかったのかもしれない

信じたくない現実がそこにはあったから……信じたくなくて幻覚であってくれと願いながらそれに触れた

手から伝わってきたのは氷のように冷たく、石のように硬い感触だけだった、あの私の好きな暖かい体温はそこにはない


「あ……」


死んでしまっている……それを再確認した時思わず声が漏れた、信じたくない信じてしまったらいけない、そう自分に言い聞かせながら私はゆっくりと首を抱き締めた

しかしやはり伝わってくるのは氷のように冷たい、酷く冷えた感覚、残酷な現実だけだった


「あ……あああぁッ!!!!」


叫ぶ事しか出来なかった私を高杉や桂、銀時が落ち着かせようとしていたが、皆頬が濡れていた

服にジットリとゆっくりと染み込む赤い何かが、また泣けと言わんばかりに残酷な現実を突きつけた

すぐ帰ってくるって言ったのに……先生はもう帰ってこない?あの大好きだった手の感触はもう永遠に無いのか?先生の笑顔は……もう……永遠に見る事は出来ないのか?

そんな事が頭をよぎった瞬間、私は首を真っ白い布の上に置いた、冷静さを取り戻して来たが体は酷く重く起き上がる事すら億劫だった

ただ項垂れて涙を流す事しか出来ない、銀時になんて声をかけたらいいのかも高杉の目をどう応急処置したらいいのかも桂になんと言って拠点に戻るのかも分からなかった
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