Short2
□幸せと言いながら
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喫茶店らしいのんびりとした曲をBGMに私は最近この杜王町に来た空条さんと話しをする
内容はいつもと同じ、彼の叔父にあたる仗助についての相談……なんと甥の空条さんの方が年上で叔父の仗助が私と同じと言うなんとも面倒な関係だ
何故私が空条さんの叔父の仗助について話すのか、それは恥ずかしながら私は彼に片思いをしているのだ、それを知るのは目の前にいる空条さんだけなのだが結構恥ずかしい
「……ナマエ、なんで顔を押さえているんだ……?」
「なんでもないです」
改めて思うと物凄く恥ずかしくて思わず両手で自分の顔を覆ってしまった、それを空条さんは不思議そうに指摘してきたのだが出来ればスルーして欲しい
「それにしてもナマエは本当に仗助が好きなんだな」
ガシャンッ思わず立ち上がってしまい私のグラスが一際大きな音を立てて倒れる、だが中身はもう飲みきっており氷が少し溢れてしまっただけだ、運がいい事にグラスも割れた様子はない
ただ立ち上がった事と大きな音のせいでだいぶ目立ってしまった、空条さんのひと回り大きな目を見ながら私はゆっくりと座った
また恥ずかしい事をしてしまった……空条さん経由で仗助に知られてしまったらどうしようなど、空条さんがそんな事をする人ではない事は分かっているがついつい思ってしまう
「あ……すいません……」
「いや、大丈夫だ、俺の方こそ悪かったな急にこんな事言って」
「いや、空条さんのせいでは……」
「怪我とかはしてないか?グラスは割れた様子はない……が、痛みを感じるところなどはないか?」
「だ……大丈夫です」
空条さんが話を変えて忙しくグラスなどを立たせながら私に怪我がないか聞き始めた、流石は大人……こういう時に冷静な対処をしている……なんて呑気に空条さんの行動を見ていると、空条さんは私がボーッとしているのに気が付いたのか、薄く笑いながら私の方を見た
そんな表情が一瞬仗助に見えてしまい、やっぱり血が繋がってるんだなぁと微かに頬に熱が集まるのを感じながら、私は空条さんの視線を避けるように俯いた
空条さんはそんな私を見てか、もう一度クスリと笑い、私の頭にゆっくりと手を置いた
「ナマエ」
「?どうしたんですか?」
「……いや、なんでもない」
「はあ……?」
空条さんは私に何か言おうとしていたが何か思い止まったように口を閉じた
相変わらず私の頭には手が置いてあるが、空条さんはそれを退かす様子がない、別に嫌ではないが空条さんは腕が痛くならないだろうか
手を挙げたままだと痙攣とかしてこないだろうか、そんな事を思っていると空条さんは私からゆっくりと手を離した、なんだか少し物足りない感じもしつつまた少し恥ずかしさが込み上げてくる
私が黙った事を不思議そうに空条さんは見てくるが気にしないで下さいと一言言い、私は通りすがりの店員に飲み物の追加を頼んだ
丁度その時、空条さんが胸ポケットの中から小さく畳まれた紙を取り出し、ペンと共に私の目の前に置いた
何事かと思い空条さんを見上げると、書類の中間より少し下の空欄を指さして
「すまないが、ここにナマエの名前を書いてくれないか?」
と言った、特に断る理由もないので二つ返事で共に置かれたペンを掴み、名前を書いていく
こう言う時に本当に信頼できる人以外、安易に名前を書いてはいけないと母親に言われたが、空条さんは何度も私達の危機を救ってくれたので信頼できる人だ
特に気にせず名前を書き終わった頃、追加注文した飲み物が届いたので、書類を空条さんに渡しつつそれを飲む
「ところでそれ、なんですか?」
一口飲み終わり、二口目を飲む直前に空条さんにそう聞くと、私が飲み始めた頃空条さんは書類をチラリと見て
「ああ、これはナマエが俺の養子になれる紙だ、後々家族にも伝えておくから安心していいぞ」
とんでもない事をサラリと言い放った、空条さんの言葉を聞いて私は思わず飲み物を吹き出しそうになったが無理矢理飲み込んだ
若干気管支に入っていってしまい、何度か咳き込んでしまったが私は空条さんからは目を離さないでいた
「ゲホッ……ちょっ!!それどう言う事ですか!?」
ようやく喉の調子が戻り、空条さんに書類の事を質問すると空条さんは親切にも私にお冷を渡し、書類を胸ポケットにしまった
そしてペンも元のところに挿し込むと、テーブルの上で軽く手を組んで口を開いた
「どういう事も何も、俺がナマエの義父になる、と言う事だ」
冷静にそう言う空条さんに軽く目眩を感じつつ、私は渡されたお冷を一口飲んだ後、軽く頭を押さえながら
「いや……意図が全く分からないです……」
と空条さんに伝えた、すると空条さんは少し悩んだように顎に手を添えてからまた分かり易いように説明をしだした
空条さんが言いたいのは、杜王町で私と知り合ってから守ってあげたいと思っていて、きっとそれは自分が帰る時も変わらないと思うので私を養子に引き取りたい……と言う事だった、全くのジャイアニズム100%の意見で、また目眩がした気がする
私はまだ親の元や杜王町を離れたくないし、なにより空条さんの養子になってしまうと仗助とは事実上家族となってしまい恋愛云々の事ではなくなってしまうのだ
「冗談ですよね空条さん!!」
「?……俺は本気だが……?」
「えええええ!!!?」
空条さんに勢い良くそう言うが、空条さんは当然のように本気だと返してきた、なにはともあれ私は空条さんの胸ポケットからあの書類を取り出す必要があるのだ
喫茶店を出てから私は空条さんとしばらく追いかけっ子をする羽目になってしまった、途中私と空条さんの様子を見た仗助と億泰が事情を聞いて参加してくれたので無事回収できた
空条さんは少し残念そうにしていたが、私としては一安心だ、それに仗助とも少し関わり合いになれたので少し嬉しいぐらいだが、そんな事を思っている暇はないだろう