Short2
□私の寮事情
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いつもの面倒な授業を終えて、疲れた体に鞭を打って寮に向かって歩く、生憎エレベーターなんて便利なものはないため、階段を登るのだ
息が荒くなるのを感じながらフラフラと鍵を取り出し、部屋のドアノブに触れる
そこで一つの違和感を感じた、そして同時にまたかと言う呆れも
鍵をかけて出てきたのは確かだ、なのに鍵が開いている、そして扉の隙間から食欲をそそるいい匂いがする
「……佐助……また勝手に鍵開けたの?」
「あ、お帰りナマエちゃん!!」
「いやお帰りじゃなくて……鍵……」
「ご飯にする?お風呂にする?それとも俺?なんつって!!」
「……うん、もういいよ」
私の言葉を一切聞かずに私の部屋に侵入した人物……猿飛佐助はヘラヘラとしながら帰宅してきた時に言う定番の台詞を言う
そんな佐助に私は溜め息をつきながらツッコミを入れて、部屋に入る、どうやら言っていた事は本当らしく、ご飯もお風呂もちゃんと準備してある、佐助本人はどうでもいい
カバンを置いて、部屋着に着替えようとしたがまた佐助は部屋を出て行こうとしないので、私は呆れながら佐助に声を掛ける
「……部屋から出てよ」
「んふふ、今更恥ずかしがらなくてもいいのに、と言うか、他に部屋ないし」
「あるでしょ、トイレ」
「俺様をなんだと思ってるの!?」
佐助にトイレに行けとストレートに言うと少しツッコミを入れながら佐助は渋々トイレに籠ってくれた
鍵をかけたのを確認してから服を脱ぐ、いつものように部屋着に着替えながら制服をハンガーにかけ、佐助を呼んだ
「ちゃんと俺様を呼んでくれるナマエが好き」
「呼ばないとずっとトイレにいるつもりでしょ」
「アハー……バレた?そりゃあ、ナマエちゃんと同じ空間に居るだけで俺様は幸せだよ、例えトイレでもその狭い空間でもナマエちゃんの生活を支えているんだから」
「お……おお、なんか怖いから聞かないよ」
私が聞かないと言っても、佐助は愛情表現?をしてくる、スイッチが入った佐助を放置してチラリとテーブルに置かれてラップが掛かった料理を見るとある一つの疑問が湧いた
このチャーハン……少し色が赤くないだろうか……そもそも赤いチャーハンなんて聞いた事がない
ふと疑問に思い、まだ愛を語っている佐助に声をかけると、瞬時にスイッチを切り替えて私の方を見た
「どうしたのナマエちゃん?もしかして俺様に抱き着きたくなっちゃった?」
「そうじゃないよと言うかありえないから……このチャーハンなんかケチャップでも入れたの?」
「…………ああ!!隠し味は俺様の愛?」
「……まさか佐助……また……」
そこまで言うと佐助はニコニコと口角を上げ始めた、そんな佐助を見て私は顔面蒼白になる
このチャーハンの隠し味……佐助の愛と言うのは大体いつも同じだ、それが本来食べられる物ならありがたく受け取るが、生憎普通の人間なら食べようとも思わない物だ
それ以前に食材ではない、人間の血を食材と言う人間は気が狂っている者ぐらいだろう
つまりこの目の前の猿飛佐助と言う人間は狂っているのだ
「……佐助、悪いけど私はもうコンビニでおにぎり買っちゃったから」
「…………そう?まあ、食べ過ぎは良くないし、俺様も強制はしないよ」
佐助が潔く諦めてくれて私は密かに安堵の息を吐いた、食べなくて良かったのもあるし、なにより佐助は以前私が食べないと言ったのにスプーンで料理を掬って食べろと言わんばかりにこちらに向けてきたのだ
なので、今回は珍しく諦めてくれて良かった……そもそも他人の血は自分に合わない物があったりするから感染症になったりするのだが、果たして佐助は検査とかをしているのか……
少し自分の身を心配した後、テレビをつけて、そのままコンビニのおにぎりを食べる、ちなみに佐助はニコニコと私を見ているだけだ、全く食べにくい
「あー、もうナマエちゃんったら、ホッペにお米ついてるよ」
「……うそだ」
「いや、今取ったあとに言ったよね?」
「……佐助が食べてるところを見てるからだよ、食べにくい」
「あはー、本当は俺様が食べさせたいんだけどね、いっそのこと手足縛ってあげようか?大丈夫、俺様ナマエちゃんの食べるスピードとかは把握済みだから、それに……」
「それ以上の事を言うと警察に突き出すよ」
「……チェッ」
佐助のスイッチが入ると同時に私は注意をする、これも少し長い付き合いから把握したものだ
佐助はスイッチのオンオフが激しい、しかも一度入るとなかなか戻ってくれない、結構めんどくさいのだ
佐助の視線を感じながら黙っておにぎりを食べていると、急に佐助は立ち上がり、私の愛用のクッションを手に取った
「……なにしてんの?」
「ナマエちゃん、これ貰っていい?」
「ダメだけど……なんで急に?」
「そっか、ダメかぁ……これだったらナマエちゃんのDNAとか沢山取れそうだったのに」
「おい」
あからさまに残念がる佐助に怒鳴り、少し行儀が悪いが食べながら佐助の手からクッションをひったくる
私が何か言う前に佐助は私の肩を掴み、焦点の定まってない目で私を見始めた
この目はまずい、なぜ早く気が付かなかったのだ、佐助がこの目をする時は決まってスイッチが入ってしまった時だ
思わず冷や汗をかきながら佐助を見る、すると佐助はグッと私の肩に爪を立てた
「ッ……佐助痛い……!!」
「ナマエちゃん、ナマエちゃん、わかる?俺様の爪がナマエちゃんの肩に食い込んでいるの」
「……ッ痛いって……」
「ナマエちゃん、俺様、本当にナマエちゃんの事が好きなんだよ……ねぇ、ナマエちゃん」
「……いい加減に……ッ!!」
佐助の行動がどんどんエスカレートしていく中、私は持っていたクッションで佐助を叩く
そして、手が離れた瞬間、対佐助用の箒で佐助の鳩尾を思いっ切り突いた
佐助がそのまま唸り声をあげて膝から崩れたのを確認して、私は幸村に電話をした
「ごめん幸村、アンタん家の馬鹿ザル回収しに来て」
そう言ったと同時に、佐助はか細い声で私の名前を呟いたので、もう一度距離を取った