Short2

□大嫌い
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さっきまでうるさかった蝉の声が遠くに聞こえる程、私は動揺していた

三年Z組の担任、坂田銀八の顔がやたら近いのだ、そりゃもう目と鼻の先と言いたいぐらい


「なにしてんですか、坂田先生」

「ナマエよォ、いい加減俺の事名前で呼べよな、クラスでただ一人お前だけだぞ?」

「別に誰がどう呼ぼうがいいじゃないですか、坂田先生」

「いんや、よくないね」


私は完全に背中を反って、坂田先生にこれ以上近付かないようにしているが、このグータレ教師はどんどん間合いを詰めてくる

人を呼びたい所だが、残念ながら下校時間はとっくに過ぎている

何故私が下校時間を過ぎている学校にいるかって?この坂田銀八に嵌められたのだ


「ナマエ、お前の中間のテスト、俺のところにあるから放課後取りに来い」


そう言われたのは何時間前だろう、結局、国語準備室の前で何時間も待たされてようやく坂田先生が来たと思ったらこうなったのだ

テストとは全く関係ない事を言ってくる教師なんていてたまるか


「ほほォ……よそ事とは随分余裕だな」

「……セクハラですよ」

「セクハラって言って済ませようとしても無駄だ」

「……テスト返して下さい」

「ナマエが俺の事を名前で呼んだらな」

「そんな言葉は、いない彼女にでも言って下さい」

「……お前……中々毒舌なのな」

「いいから返して下さい」

「……名前」

「……返して下さい、金●先生」

「なんか違う!!」


そんなやり取りをしているが、体勢は全く変わってないので辛い

すると坂田先生は何を思ったのか、一気に顔を近付けてきた


「うわっ!?気持ち悪い!!」


思わずそう叫んでしまったが、極限まで仰け反っていたので限界が来て私の体は尻餅をつくように倒れた

いや、倒れる筈だったのに何故か私の腰には坂田先生の手が添えられ、支えられてる


「……流石に泣くよ?」

「……離して下さい、離してそのまま廊下に降ろしてください」

「俺より廊下の方が綺麗って事!?」


困ったように笑いながらそう言う坂田先生に眉間に皺を寄せて言い返すと、キャーッなんて女らしい声を上げたが、一向に離す気配はない

一体この教師は何がしたいんだ……全く見当も付かない……

呆れながらそう思っていると、坂田先生はニヤリと憎たらしい笑みを見せて


「名前で呼んでくれたら離してあげるよー」


と、言ってきた、何故こんなにも名前を呼ばれる事がいいのか全くわからない、第一なぜこの担任はいちいち私の名前を呼ぶのか全くの謎だ

そこまで話してないし、ただ担任ってだけだし、第一私はこの坂田銀八と言う人間が嫌いだ

だが、どうやら本当に名前を呼ばないと離してくれないらしい、私は参ったと言わんばかりに溜め息をついて


「大嫌いですよ、先生」


と、冷たく言い放ち、そのまま自由な利き手で坂田先生の鳩尾を殴った

その直後、くぐもった声を上げて私から手を離した坂田先生、支えがなくなり廊下に倒れるように着地した私、まだ唸ってる坂田先生を放ってテストを回収した私が誰もいない廊下で目撃された
 

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