Short2

□月詠誕記念
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二月九日…今日が月詠さんの誕生日だと聞いて慌てて吉原に向かった

近くにいた百華の花魁さんに月詠さんを呼んで来てもらうように頼み、団子屋の長椅子に座る


「ふぅ……」


月詠さんと会ったのは、私がこの吉原に迷い込んだ時だ

正確に言えば連れ去られそうだったのだ、そんな時、私を守ってくれたのが月詠さん

それから月詠さんと仲良くなるのにはそうそう時間はかからなかった

すぐに仲良くなり、月詠さんが地上に出た時には一緒に遊んだりするのが私の日課になっている

私の大切な存在である月詠さんの誕生日を覚えて無いなんて……馬鹿か私は……

そう自分を罵りながら、団子を口に含む


「お嬢さん」


それにしても、月詠さん遅いなぁ……忙しいのかな……


「お嬢さんってば」


ッ!!もしかして、私に会いたくないとか!!!?


「ちょっ!!聞いてる!?お嬢さん」


うわぁ……そうだったらどうしよう……私のプレゼントとか真っ先にゴミ箱行きかも……


「……いい加減にしやがれ!!」

「ッ!!!?」


急に腕を掴まれ、無理矢理立たされた

慌てて振り向いてみると、そこには……


「お前……!!」


あの月詠さんと出会うきっかけでもあり、私が一番会いたくない男が気持ち悪い笑みを浮かべている

そして、ソイツは周りには聞こえないほど小さい声で


「探したぜ、あの時は死神太夫に邪魔されたが今は邪魔は入らねぇ、早速俺の資金になってもらうぜ」


と、言ってきた、コイツは女を人買いに売り飛ばす最低な奴だ

改めてコイツのクズっぷりに腹が立ち、睨み付けていると


「何だその顔……物がそんな顔するんじゃねぇよ!!」


と、怒鳴り、私の頬を平手打ちした

パァァンッ!!

と、乾いた音が響き、吉原を歩く人達がチラチラとこちらを見るのが感じた、だが誰も助けようとしない


「ッ……」


痛みからか涙が溜まる、いや、痛みからじゃない、何もできない私の不甲斐なさからだろう

ただ涙を溜め込み、せめて流さないように我慢していると


「貴様……よくも……よくもわっちの…大切な友人を……!!」


と、聞いてるだけでも足がすくみそうになる声が後ろから聞こえた、怖いが、今一番聞きたかった声だ

そして、そのあとすぐにあの男は血を吹き出しながら倒れた、だがうめき声を上げているところを見て殺してはないようだ

ゆっくりと顔を上げると、柄にも無く息を切らしている月詠さんが立っていた


「……大丈夫か?ナマエ」


月詠さんはそう言い、私に手を差し出してきた


「……月詠さん……ッ!!」


私は思わず月詠さんの名前を呼び、抱き着いた

月詠さんはゆっくりと私の後頭部を撫ぜてもう大丈夫だと言ってくれた


「ナマエ、すまんの…怖い思いをさせてしまった……」

「……ううん、大丈夫……月詠さんが来てくれたから……」


そう言うと、月詠さんは傷の手当てをするため、私を月詠さんの部屋に入れてくれた


「月詠さん……ありがとうございました……」

「いや、本当はナマエを無傷で助けたかったんじゃが……頬……大丈夫か?」


月詠さんはそう言い、私の頬を撫ぜた、すっかり月詠さんに手当てされた頬にはもう痛みはない

少しの間、頬を撫ぜてもらっていると、何かを思い出したように月詠さんは手を元に戻した


「そう言えば……ナマエはなぜここに?」

「ああ、それはね……」


月詠さんに言われ、私は懐を探った

月詠さんに渡すために店員にラッピングをしてもらった物だ

受け取ってもらえるか心配だったが、ゆっくりとそれを差し出した


「月詠さん、誕生日おめでとう」


少し恥ずかしかったが、そう言うと、月詠さんは驚いたように目を見開いてオドオドしながらも私のプレゼントを受け取ってくれた


「ありがとう……開けても良いか?」

「う……うん!!当たり前だよ!!」


頬を少し赤くしながらそう言う月詠さんに驚きながらそう答えると、少し嬉しそうにプレゼントの包装を取る月詠さん

そんな月詠さんを見て、少し嬉しく思った、気に入ってくれるといいな……

そう思っていると、月詠さんが箱を開けた


「……ど……どう?」


ドキドキしながらそう言うと、月詠さんは


「簪……」


と小さく呟いた


「どうかな……いつも月詠さん苦無の簪してるから……たまには他のかんざ……しィィィ!?」


プレゼントした理由を聞かれてもいないのにペラペラと言ってしまった

だが、言い終わる前に月詠さんは私に抱き着いてきた、そんな思いもしなかった行動に驚いて叫んでしまった

そんな私をスルーして月詠さんは


「ありがとう……ナマエ……ありがとう……!!」


と、ありがとうを連呼していた

私はなんだか嬉しくなって、月詠さんの背中に手を回して


「どう致しまして……」


と、小さく呟いた

これからも、頼れる存在の月詠さんでいてね……
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