白銀花が咲く夢を見る

□幼少期
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三人で遊んだ事は沢山あり、高杉と一緒にカブトムシを採ったり、桂で遊んだり、銀時と一緒に昼寝したり、桂をヅラとバカにして川に落とされたり、先生も連れて祭りに行ったり、閃光花火競争したり……

最近は授業の後四人で遊んだ事を先生に言いに行くのが日課になってきている、日に日に先生の所へ行く時間が短くなって少し寂しい気もするが皆と遊ぶのが楽しいのだ


「先生ェ」


先生の部屋の襖を開け、本を読んでいる先生の着物を掴む、すると先生は本に栞を挟んで私の方を向くのだ、先生の綺麗な髪の毛が太陽の光で反射してとても綺麗で私はそれが先生の一番好きな所だ


「なんですか花無為?」

「あのねぇ今日もまた四人で遊んだんだ」


ヘラリと笑いながら先生にそう言うと先生は微笑みながら私の頭を撫でてくれた、この手が私は大好きだ、いつも優しく撫でてくれるこの手が

そう思いながら、思わず気持ち良さに目を細めてしまう、先生の手の動きが止まったので思わず目を開けて顔を上げると


「花無為、この数ヶ月で貴方は本当に変わりましたね……」


先生は少し嬉しそうに笑いながらそう言ってきた、先生はまるで自分の事のように嬉しそうに笑ってくれている、私はなんだかそれが嬉しいような恥ずかしいような気持ちになり思わず自分の頬を掻いてしまう


「そう?」

「ええ、明るくなりました」


先生の言葉を聞いて気持ちがスッと軽くなった気がしたがきっと勘違いとかではないだろう、このまま大きくなるまで先生と一緒にいて四人でずっと遊ぶのだと思うと自然と口角が上がるのが分かった

明日はどんな遊びをしよう、どんな事を三人に話そう、明後日は明明後日は……また来る日常の予定を私は先生に聞かせた、先生は時々相槌を打ちながら私の頭を優しく撫でてくれた

そんな時、またふと先生の手が止まり先生は私の頬を両手で優しく掴んで自分の方に顔を向けさせた、先生の優しい瞳に少し気の抜けた私の顔が写っている


「花無為、一つ約束をしてくれますか?」

「約束?」


ボーッと先生の瞳を見ていると先生が急にその綺麗な瞳を瞑りながらそう言ってきた、先生の言葉を聞き返すと先生はゆっくりと頷いた


「ええ、花無為がもっと人との繋がりを楽しめるように……」

「人との繋がり……?」


よく先生の言ってる事が分か思わずポカンとしてしまう、先生はそのまま私の方を見て真剣な表情で口を開いた、先生が真剣な表情なので気の抜けていた私もしっかりと先生の言葉に耳を傾けた


「人から借りた恩は必ず返す事、そしてそれ以上に仲間を助ける事……そうすればもっと人との繋がりが出来て仲間も沢山出来ます、そしてその人は大きくなれるんですよ」


先生はそう言うが私はまだ良く分からない、こういう時に頭のいい人はスッと分かるのだろうかと思いながらも先生の言葉に疑問符を飛ばす


「つまり……どういう事……?」

「ふふッ…人を大切にする事です、助ける事が出来る人を一人でも多く………ね?花無為ならきっとそれが出来ますよ」


首を捻りながら聞き返すと、先生は軽く笑いながら私にも分かるように簡潔に言ってくれた、まるで授業中分からない生徒に教える時のように優しく言ってくれた

先生の言葉にようやく納得し、しっかりと忘れないように覚えた、きっとこの先私は一生この言葉を忘れないだろうと自分でも分からないが何故かそう思った


「分かったよ先生、私は借りた恩は必ず返すし仲間も見捨てない……約束ね」

「はい、約束です」


先生とそう言い合い、私達はゆびきりげんまんをした、いつもなにか約束をする時はゆびきりげんまんをするのだ、先生の指は細くて暖かくて……私は本当にこの人が大好きだ

いつまでも笑い合える、いつまでも一緒に……そんな日がずっと続くと思っていた……だがある日先生は見知らぬ変な奴らに連れて行かれた

私の身体には縄が巻かれて身動きが取れない状態で、更には行く手は笠を深く被り顔が見えない奴らのせいで阻まれる


「先生ェェェ!!」

「離せよ!!先生が何したって言うんだ……離せェェェ!!」


銀時の叫び声の後に私達を押さえつける奴らに怒鳴りつけるがそれでも阻む手は退かない、それどころか先程より強く押し付けられる

息が苦しくなってきて遂には咳き込んでしまうが先生に向かって声は上げ続ける、離れたくない一心だった

手を伸ばせば届く距離に先生がいるそれなのに助けられない……いつも暮らしていた松下村塾も燃やされている、私にとっての地獄がそこには広がっていた

私と銀時は必死に連れて行かれる先生を止めようとしたが、先生はいつものようにゆっくりと振り返り


「銀時、花無為……大丈夫ですよすぐ帰ってきます、約束です……銀時皆をお願いします、花無為私との約束守って下さいね……」


いつもとは少し違う寂しそうな笑顔でそう言った、学び舎から降ってくる火の粉が先生の顔をぼんやりと照らす、そのせいか先生がとても悲しんでいるように見えた

先生の言葉が自然と耳に入る、もう二度と会えないのでは?そう思うと自然と涙が溢れた

先生は私達に背を向け、黒い服を着た奴らと共にどこかへ行ってしまった、ゆびきりげんまんをする時のように小指だけはしっかりと伸ばして……


「「松陽先生ェェェェ!!!!」」


だが私の小指はゆびきりげんまんのように先生の暖かい小指と交わる事は出来なかった、私と銀時の叫び声は炎のせいで少し赤みを帯びた夜空に消えていった
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