灰色の愛

□第十七夜
2ページ/2ページ



「ティッキー!?」

「ティキ!!」


ロードと一緒にティキの名前を叫んだがある違和感に気が付いた、普通ならティキの身体は血を出しながら分かれる筈なのに、分かれるどころか血すら一滴も出てなかった

どうやらそれはティキも理解できたようで、焦りながら自分の身体を握り


「……どういう事だ……死なない?」


と、不思議そうに呟いている、どうやら痛みはあったそうだが斬れていないのは確かだ


「……何の幻術だ少年……」

「幻術なんかじゃないですよ……僕が斬ったのは……」


ティキがアレン・ウォーカーに責め寄ると、アレン・ウォーカーは冷静に斬った物を示した

ジュゥと燃えるような音がした直後、ティキは口から血を吐き出した、よく見てみるとアレン・ウォーカーに斬られた部分に十字架のようなものが見える

ティキが聞いた事もない叫び声をあげて苦しみ出すのを見て私は理解した、アレン・ウォーカーが何を斬ったのかを


「"ノア"を……"ノア"だけを斬ったのか……アレン・ウォーカーッ!!」


アレン・ウォーカーが持っているのは私達の中にある"ノア"を斬る剣だったのだ、なんて残酷な事をするのだろう

私の言葉を聞いて、アレン・ウォーカーはティキの絶叫を聞きながらも冷静に


「人間を生かし、魔だけを滅する……それが僕と神ノ道化の力……!!」


と言った、そんなアレン・ウォーカーの言葉に私は思わず歯を食いしばった、ブチリと口内が切れる音がして鉄の味がするがそんな事はどうでもいい

今はこの悪魔を……このピエロをなんとかしないと駄目だ……このままじゃ私の家族が全員居なくなるかもしれない


「俺から……ッ…ノアを奪おうっての…かッ……少…年……俺を殺さず…に……ノア……だけ?…フハッハハハハハ!!お前は…甘い…な……!!甘いよ、これは……ただのお前のエゴだ……ッ」

「なんとでも、その為の重荷を背負う覚悟は出来ている」


アレン・ウォーカーはティキの言葉を剣を向けながら冷静に返す、きっともう一度これで斬られたらティキは完全にノアを失うのだろう

そう思ったら止めるしかない、慌てて箱の上から飛び降りると、ロードも続いてレロから飛び降りた


「ティキ!!ノアが……ノアがなくなる!!」

「ティッキー……!!」


ティキに走りながら近寄ると、手で制された、ティキの手だ

剣を向けられながらティキは私達を手で制して、口元をほんの少し釣り上げて弱々しく


「いい」


と、一言呟いた、それを聞いては私は動けない、ティキが斬られるのを見ているしかない

アレン・ウォーカーはもう一度目を釣り上げてティキに向かって剣を引き


「この戦争から……退席しろティキ・ミックッ!!」


と叫び、ティキの体を完全に剣で貫いた

ビキッと音を立てながら聖痕の周りに血管のようなものが浮き上がった


「……残念だ……少…年……悪いな……ラルト…ロード……」


ティキは最後にそう呟いてまた弱々しく笑った、そしてアレン・ウォーカーはティキの身体から剣を引き抜いた

ティキの身体は音を立てて倒れ、聖痕はまるで元からそこには無かったとでも言うように綺麗に無くなっていた


「ティ……ティキ……?」

「ティッキ……」

「ティッキーの聖痕が消えたレロ……」


ティキを遠くから見下ろしながら私は思わず名前を呟いた、だがいつも返ってくる返事はなかった、ロードもレロも驚いている、何故こんな事になった……?

唖然としていると、私達とは違う声色が響いた


「やったッス!!悪魔を!!敵を倒したヒャッホォ!!!!」


なんて耳障りな感嘆の声なのだろう、私達は家族を失ったのに、人間に戻ると言う最も残酷な死に方をさせられたのになぜコイツは笑っているのだろう

そう思い怒りを感じた時、何かが刺さる低い音がした、目をやると喜んでいた人間の背中に蝋燭が刺さっている


「チャオジーッ!!」


リナリーが叫ぶ声を聞いてアレン・ウォーカーが慌てて振り返るが、動きは途中で止まった


「動くな、動いたら全員刺す……神ノ道化のアレンはこんなんじゃ死なないだろーけど、アレン以外は多分死んじゃうよぉ?」


ロードの怒ったような声が聞こえたのはその後すぐだった、よく見るとリナリー達が入っている箱の周りとアレン・ウォーカーの周りには蝋燭が無数に浮かんでいた

三人に警告した後、ロードは私の手を握ってティキの方に向かって行く


「僕ね……アレンの事好きだけどぉ、家族も特別なんだぁ……この気持ちはアレンと一緒だね」


しゃがみながらティキを抱き寄せるロードを見て、私は胸が苦しくなった、きっとロードも私と同じ気持ちなのだろう

私はロードの逆側に座り、ティキの額を改めて見てみたが、やはり聖痕は無く、また悲しい気持ちだけが溢れた


「……ティキ……バカだね……」


いつものようにバカにしてもティキは目を開けず、倒れているだけだった

その時、横でアレン・ウォーカーが少し動いた音がした、それを聞いてロードはアレン・ウォーカーを睨み付けた


「動かないで、僕ちょっとムカついてるんだよ、仲間の体に穴が開くの見たい?……でもそれだけじゃ足らない、"ひとり"……アレンの仲間にお仕置きしちゃうんだから……赤毛の子、"ラビ"っていうんだね?あの子の精神は今僕の内にあるんだよ……そいつの心メチャクチャにしてやる……!!」


口元を歪めながら笑うロードの言葉を聞いてアレン・ウォーカーは一気に顔色を悪くした

私はそんな二人の様子をただボーッと見ていた、私は今何もできないから、ロードがやる事を見てるしかない

チラリとティキを見ると、あの笑顔が蘇りまた悲しくなっただけだった、何故こんなにも悲しいのだろう、家族を目の前で失うとこんなに悲しいものなのか……?
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ