短編
□太陽の笑顔
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5月5日。
今日は我らが船長、ルフィの誕生日だ。
昼からルフィの誕生日会を称してごちそうが振る舞われる。
ナミが大切に育てているみかんを料理に使ってほしいとサンジに渡し、サンジがそのみかんを使いながら、船長の大好きなお肉料理をたくさん作った。
それが全部自分のためで、全部食べてもいいと言われたルフィは飛び上がるくらいに喜んでお腹をぱんぱんに膨らませて平らげた。
チョッパー、ウソップ、フランキーは男のロマンを詰め込んだ(らしい)共同開発というロボットをあげていた。
貰ったルフィの目はキラキラと輝いていて、ギミックが紹介されるたびに「うぉおお!」と声を上げている。
ロビンとゾロからはやっぱり食べ物が送られていたらしく、食卓にはお肉料理のほかに一つ前の島の特産品が並べられた。
飲んで食べてのどんちゃん騒ぎの中、ブルックはルフィのリクエストを聞いてヴァイオリンを奏でていた。
さて、私はプレゼントを渡す機会を逃したんじゃないだろうか。
ルフィはブルックの陽気な演奏に合わせて、ウソップ、フランキー、チョッパーと歌っている。
それを眺めながら、手に持ったままのリボン付きの筒を見つめてため息をつく。
住んでいた島でのことが原因で、私は男性が苦手であの輪に入って話しかけに行くことができないのだ。
「あら、ナナコ、まだルフィにプレゼント渡してないの?」
そんなことをしていたら、空のグラスを片手に持ったナミに声をかけられた。
飲み物のおかわりにでも行くんだろう。
そんな中甲板の手すりに凭れながらため息をついている私を見つけたといったところか。
「あー…うん、なんかウソップとかと楽しそうにしてるから、タイミング逃したっていうか…。」
「ったく、あいつら気が利かないんだから。」
「気にしないでナミ、何とか自分で機会伺ってみるし。」
「…あんた優し過ぎよ?まっ、頑張んなさい。」
「ん、ありがと。」
じゃあ、とナミはウィンクして立ち去る。
すかさずサンジがお飲み物のおかわりは?と声をかけてたから、彼にも少し気を使わせたかもしれない。
私が男性恐怖症だと判明してから、この船男性陣は必要以上に近づいてきたりすることはない。
恩人である彼らに気を使わせてしまっているのは悪い気がするし、ほんの少し寂しさもあるけれど、だからこそ早く克服しようと思えるのだ。
特に、あの生活から私を連れだしてくれたルフィには感謝してもしきれない。
あの島の景色だけを描いて妥協していた私に「つまんねぇ絵だな」と言ったことは、これから先もきっと忘れないだろう。
「世界中の景色を描きたい」と、隠していた本音を引き出させたのは、それこそ彼のあの一言が大きな要因なのだから。
島を出ることもかなわず、島主の言いなりだった生活を思い返し、この船での自由な生活と比べて、その差に思わず笑みがこぼれた。
戦いで傷つくことがあっても、それ以上に今の生活が楽しい。
まだ仲間になって日も短いけれど、すでにこの海賊団が大好きになっていた。
視線をルフィたちから海へと移す。
もう少ししたら、頑張って自分から声をかけてみよう。
1年に一度きりの、大事な日なのだから。
こういう一歩がこれからに繋がるんだ、うん!がんばろう!
心の中でそう意気込んで、密かに胸の前で拳を握った。
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