短編

□赤の誘い
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ニライカナイ島―大いなる航路(グランドライン)の幻想郷とさえ呼ばれるこの島の海域に、一隻の海賊船が止まった。
甲板ではそのクルーたちがせわしなく上陸のために動いていた。
船は、港ではなく裏の崖付近に隠れるようにつけられ、クルーの一部は橋を架けたりしてひょいひょいと島に上陸した。

目的は掠奪ではない。
単に物資の補給であった。
とはいえ、これは結局船長自身の判断にゆだねられるのだが。



鬱蒼とした森を抜け、海賊団の船長、ユースタス・”C”キッドはキラーを連れ街へとやってきた。
幻想郷だとか、豊穣の島だとか言われるだけある。
そこは畑も果実も、その周辺に生えている木々や草花までも、鮮やかに街を彩り、人々のにぎわう候えが絶えない、繁栄を色濃く見せる、そんな街だった。


「フン、噂されるだけあるようだな。」
「違いない。」


キッドが口角を上げ、上機嫌に言えば、少し後ろを歩くマスクの男、キラーが答える。
うまい酒が飲めそうだといえば、またそれも肯定された。



活気のあるこの街は、何とも不思議な街で、木造の建物も、石造りの建物もある。
建物だけではない、人々も不思議だった。来ている服に始まり、髪の色、瞳の色までばらばらだ。同じ島に住んでいて、こうまで変わるのだろうか。
違和感を覚える、不思議な風景であったが、何故か気味が悪いとも、居心地が悪いとも思えず、むしろ気分がいい。
心地よい雰囲気に彼らの足取りは軽い。

活気溢れ、賑わう商店街に2人が足を踏み入れると、客を呼び込む声がそこかしこで聞こえる。
海賊である彼らのこともどうも歓迎ムードのようで、明らかに悪人面のキッドさえも客引きが声をかけた。
それらに気を取られることなく、しかしこの景色に珍しくキョロキョロと視線を彷徨わせながら進むキッド。
ふと、何かが建物と建物の間を抜けていったような気がしたが、気のせいだろうとすぐに目的のものを探した。

彼らが捜しているのは酒場。昼間からやっている酒場はなかなか見つからないが、それでもこの島には存在したようで、しばらく歩けば看板を見つけ躊躇することなくそこへ入っていった。




真昼間だというのに、そこにはたくさんの人がいた。キッドたちに臆する様子もなく、旅の人かい?いらっしゃい、なんて、店員でもない奴が笑って言った。
普段であればそんなものは不快で、すぐに殴り飛ばしていたであろうが、今日は不思議とそんな気分ではなかった。

ちょうど空いていたカウンター席にどっしりと腰かける。酒場の店主と思わしき男に酒を頼めばそれらはすぐに出てきた。


暫くそうして酒を嗜んでいると、バァンと大きな音を立てて店の扉が開かれた。
流石にそれは不快で、思わず扉からやはり勢いよく入ってきた男に睨みを効かせる。
しかしそれに気付いていない男は、近くの別の男に慌てた様子で話しかけていた。
そんなことをしていたからだろうか、嫌でも男たちの会話は耳に入ってきた。


「またあの子どっか行っちゃったよ…!」
「あー、あの忍の子かい?」
「ゲームとかアニメとか漫画とかの話が通じないのは難しいよ!!」
「BASARAの世界から、だっけ、その子?そんなこと言ったって仕方ないだろ?っていうかそれが通じると思ってた君がバカだよ、ゲームどころか漫画もないしテレビだってない世界だ。頭おかしいとしか思えないぞ?」
「そうなんだけどさぁ……どう頑張ってもこの世界は俺たちが死んだどの世界とだって違うんだ…うまく伝えられなかったけど。」
「それをそのまま伝えたら?」
「う、うーん…聞いてくれるかな。」
「少なくともゲームの話するよりマシでしょ。」
「そう、そうだよなぁ…。」
「この島は“島民の願いを叶えてくれる島”なんだろ?君が言ったんじゃないか。」
「!!そうだな!うん、頑張る!!」
「はいはい行ってらっしゃい。まず見つかるといいな。」


バタバタと、再び大きな音を立てて扉をくぐっていった男。
殴る機会を逃した、と思ったがその分おもしろい話を聞けたことに、キッドの口角は上がった。



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