おもかげを追う

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ハートの海賊団に対し、船に乗せてほしいと大胆告白をかましたその夜、ユトラは賑わうセロシアの煌びやかな街をぶらぶらと歩いていた。
着用していた彼女のトレードマークのようなものだったカーキ色のフード付きコートは、脱いでいた。代わりにカーディガンを羽織って、秋島特有の夜の寒さをしのぐ。
コートを脱ぐこと、というよりは、フードをかぶらないことは、ローが昼間に決めた条件のうちの1つだった。


『顔を隠すな』

これがローと交わした条件のうちの1つ。素顔も見せられないようならうちには置かない、らしい。二つ返事で了承してその場でコートのフードを取った時にはちょっと驚いていたのが面白くて、思わず小さく笑ってしまった。

他にも『最終的な決定は次の島で』『その間仲間には一切の危害を加えないこと』『この島での必要最低限以上の金銭はすべてハートの海賊団が管理するため、預けること』『次の島へはハートの海賊団の潜水艇ではなく自分の船で向かい、認められるまで潜水艇に乗ることは許さない』『ハートの海賊団船長及びクルーの指示に従うこと』など様々。
そのほとんどが行動を制限させられるものであったが、ユトラにとっては些細な問題であった。


何より大事なのは“ローと一緒に過ごせるチャンス”が巡ってきたことだ。


今は、病弱だったあの世界の自分ではない。いっそ丈夫すぎる体に最大級に感謝したいくらいだ。
探していたとはいえ、この広いグランドラインで巡り合えたのは奇跡にも等しくて、これは運命なのではないかなんて馬鹿なことを考えてしまう。それくらいには今、浮かれている。

何であろうと、このチャンスは無駄にはできない。きっと、いや確実にこの一度きりなのだから。
とかいいつつ、やはり自分は浮かれている。ようやく会えた大好きな人を思うと、浮足立ってしまう。思わず鼻唄をうたって、軽い足取りで街中を歩いていた。



「あっ、ユトラー!」


不意にかわいらしい声に呼ばれて、あたりを見回す。振り返ったときにその声の正体がベポであると気づいた。
一緒にいるのはペンギンとシャチ。2人はユトラに向けて手をぶんぶん振るベポに対し、エッお前何親しげに手ェ振ってんのという表情を向けていた。
あちらの世界で、ベポは「ゾウの国のミンクたち」なんて子供向けアニメの人気キャラクターだった。ユトラも、あちらの世界のローも幼いころ大好きだったキャラクターだ。ユトラはベポの着ぐるみが街にやってきたとき大はしゃぎで、駆け寄っては抱き着いたのをよく覚えている。
ペンギンとシャチの怪訝そうな顔は気にしないことにして、こっちこっちー!と笑顔で手招くベポのもとへ駆け寄った。なんだかんだでペンギンとシャチとは仲良くなれる気がしたからだ。



「こんばんはベポくん。どこか行くの?」
「うん!これから…」
「おいおい、何言おうとしてんだベポ!」



行先を告げようとしたベポを止めたのはシャチだった。きょとんとするベポ。ユトラとシャチを交互に見てえっ?と首を傾げている。可愛らしい。



「なんで?シャチ、ユトラはおれたちの仲間になるんでしょ?」
「まだ決まってないだろうが!こいつは否定してたけどおれらからしてみれば賞金稼ぎ以外の何者でもない。キャプテンが条件付きで様子見るって言ったって信用はしてねぇんだからな!」



ビシッと指を指され、ユトラは眉を下げた。同意すると言わんばかりに腕を組んでペンギンが頷く。彼らの考えはもっともだ。



「でも、それなら私についてくるなって言えばいいんじゃない?私はローやその仲間の命令を聞くように言われてるんだから」
「だーかーらー!それだって素直に聞くかわかんねぇだろ!」
「じゃあ船に戻ってようか。なんとなく出てきただけだから、別に問題ないし…なんなら見張っておく?」
「はぁー?飲みに行くっつーのにお前の見張りに付きたいやついるわけないだろ!」
「おい、シャチッ!」
「……」


今度はペンギンがシャチを止めた。はっとして口元に手を持ってくるシャチ。まさかぽろっと行先につながる情報が出てくると思っていなかったユトラ。これには思わず苦笑いしてしまう。



「くっそー!謀ったなー!?」
「「「いやいやいや」」」


地団駄を踏むシャチ。その場の誰もシャチの味方にはなれなかった。
ペンギンは頭を抱えてため息をこぼしたのだった。



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