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□大切な人 U
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人を愛する日が来るなんて。

そして、人から愛されるなんて。



私の人生に訪れる事はないだろうと思っていた、甘酸っぱい日々。

頑なに心を閉ざしていた私を柔らかく解してくれたのは、大切なアイリちゃん。


こんなに人を愛したのは初めてだから、私の気持ちをぶつけたら

歯止めが効かなくなって、小さな君を壊してしまいそうで怖いんだ。


「おやすみ、私のお姫様。」


そう言ってアイリちゃんに毛布をかけてキスをする。


少し開いた唇の隙間に舌を差し入れ、アイリちゃんの舌を絡めとる。



「はあっ…、ソウシさん…。」



頬を桃色に染めて、潤んだ瞳で私を見つめるその顔は
たまらなく色っぽく、私の中の雄が疼き出す。


「明日も早いから、もうおやすみ?」


そう言ってアイリちゃんから唇を離し、自分の雄を無理矢理押さえつける。

「…はい…」


キスの先を予感していたのだろう。

名残惜しそうに、もぞもぞと布団に潜るアイリちゃん。


君は全力でぶつかってきてくれるのに、

私の狡い部分は中々治りそうにないね。


女性を抱いた事はあるけれど、愛する人を抱いた事はない。


セックスは生理的な欲を満たす為だけの行為でしかなかったから

真っ白なアイリちゃんを汚してしまいそうで、怖いんだ。


だから今は、キスに目一杯の愛情を込める。




朝、隣でスヤスヤと眠るアイリちゃんの額にそっとキスをする。


愛らしい寝顔を見ていると、このままベッドに縛り付けてかき抱きたい衝動が沸き上がる。


(いい大人がまるで思春期の少年みたいだな。)


苦笑いをしてアイリちゃんを起こさないようにベッドから抜け出し、支度を済ませる。


医務室に向かう為に部屋を出ると、ナギに出会った。

「おはよう、ナギ。朝食の仕込みかな?」


「おはようございますドクター。」


ナギがまじまじと私の顔を覗く。


「ナギ、どうかしたの?」


「…、悩み事ですか?ドクター。」


「えっ?」


「アイリですか?」


「……。」


そんなに態度に出ていたかなあ。でもナギは意外と人の心に敏感だよね。


「私はもっと大人だと思ってたんだ。」


「……。」


「好きな子を傷つけたくないのに、止められなくなりそうな自分が怖いよ。」


朝からナギに愚痴るなんて、益々大人げないなあ。


「…あいつは、そんな風に思ってないんじゃないですか?」


「…。」


「あいつがドクターにどんだけ惚れてるかは、ドクターが一番わかってるでしょ。」


「あいつは何があってもドクターを受け入れると思いますよ。」


「ナギ…。」


「なんか出しゃばってすんません。仕込みがあるんで失礼します。」



珍しくよく喋った事が気まずいのか、少し目を伏せて厨房に向かうナギを見送ったまま、私はその場に立ち尽くす。


「…ありがとう、ナギ。」


私は心が軽くなるのを感じながら医務室へ向かった。
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