メイン

□大切な人 U
2ページ/2ページ


午後



コンコン。


「どうぞ。」


医務室のドアが控え目に開けられ、愛しいアイリちゃんが顔を覗かせる。


「ナギさんのお手伝いが終わったので、医務室に行けって言われたんですけど…。」


ナギなりに気を使ってくれたのだろう。

私はアイリちゃんを迎え入れた。


「薬草を片付けていたんだけど、それを手伝ってもらおうかな?」


「はいっ!」




「……。」

「……。」


しばらくお互いに無言で仕事に没頭していたが、
同時に声を発した。


「「あの…」」


「アイリちゃんなんだい?」


「ソウシさんからどうぞ?」



タイミングのよさにくすぐったくなりながら、「じゃあ…」と、真っ直ぐアイリちゃんを見つめる。



「アイリちゃん、私はどうしても自分の気持ちから逃げてしまう癖が出てしまうみたいなんだ。」


「アイリちゃんと想いが通じただけで満足していたつもりだったけど、
もっと深くアイリちゃんを知りたいと思うようになった。」


「でもその気持ちはアイリちゃんを汚してしまいそうで、見て見ぬふりをしていたんだ。」


「ソウシさん…。」


「でもそうじゃなかったんだ。どんな私でも全て私なんだって事を
アイリちゃんに知って貰わないといけないよね。」




「アイリちゃん、君が好きでたまらないんだ。私の全てを受け止めてくれるかい?」



アイリちゃんの瞳が大きく見開いたかと思うと、綺麗な涙が溢れてきた。



「…っ!ごめん!泣かせるつもりじゃなかったんだ!!」



慌てる私を見てアイリちゃんは「違うんです。」と泣き笑いをしながら、


「私が言おうと思ってたこと、ソウシさんが全部言っちゃうんですもの。」


と言った。




涙を浮かべて少しはにかんだ笑顔が綺麗で

思わず抱き締めた。



「ソウシさん。私はソウシさんの全てが好きなんです。…だから、ソウシさんを全部見たいです。
何があっても、ソウシさんをキライになんてならない。」



「アイリちゃん…、ありがとう。」


愛しいや好きなどの言葉では間に合わないくらいの気持ちで心が埋め尽くされる。



私はアイリちゃんを抱きしめたまま、唇をアイリちゃんの耳元に寄せた。



「アイリちゃん、あのね…。」



私の言葉を聞き終わると、とたんに真っ赤になって口をパクパクさせている。
なんて可愛いんだろう。


「ソッ、ソウシさん?」


「ねっ?いいかな?」


アイリちゃんは私の胸に顔を埋めると耳まで真っ赤になりながらコクコクと頷いた。


「あっ、あの、私!洗濯物取り込まなくちゃ!!」


ガバッと私から離れると、「しっ、失礼します!!」と勢いよく医務室を飛び出して行った。



後にはアイリちゃんの甘い残り香。


私はその香りを堪能しながら、幸せな余韻に浸っていた。


────────



アイリサイド



バサッ!バサッ!バサッ!

私は無我夢中で洗濯物を取り込んだ。


「どうしよう…!どうしよう…!こっ、心の準備が!!」


先程医務室でソウシさんに囁かれた言葉が甦る。




(今夜、君を抱いてもいい?)




ここここ今夜!!

そりゃ期待はしていたけど、改めて予告されるとなんとも恥ずかしい!!



でも…。



ソウシさんとなら
きっと大丈夫。



私は今夜迎えるであろう甘い時間に期待とちょっぴり不安を胸に


ソウシさんへの想いを膨らませて行った。


Fin
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ