企画書
□ お題:夕立≪四万打記念≫
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仕事の合間だったが、いつの間にうたた寝していたようだ。
急に騒がしくなって目を覚ました。
バタバタと隊員達が詰め所に戻ってくる。
まだはっきりしない頭をもたげてみれば、土の匂いが鼻をくすぐった。
窓の外を見やると空はまだ明るい。
──夕、立……?
雨しぶきで靄がかる、白くけぶる視界、沸き立つような地面。
鳥は身をひそめ、木がしなだれ、草はひれ伏す。
やかましいほどに伴侶を求める虫の声も、賑やかな街の雑踏も、隣人の声も、全てを無音へと掻き消す大きな雨音。
──あなたの匂い……
まるで彼の腕に抱かれているようで、その心地よさにまたうつらうつらとまぶたが重くなる。
「おい、寝るな」
肩を揺すられて、閉じかけた眼をゆっくりと開いた。
この手の感触はよく知っている。そしてこの声も。
「どうしたんだ、まだ仕事中だろう」
「ん〜、言われてた分はもうおわりました……」
「なら早く帰れ」と背中を押される。
手加減や声の調子が優しくて、まだしばらくこのままでいたいと思えた。
「おい、聞いているのか」
「……隊長は?」
まだ眠気を宿した瞳で現八を見上げ、探るようにして背中にあった彼の手に自分のを重ねた。
「俺はまだやることが残っている」
「じゃあ待ちます」
ヨイショと体を起こして、凝りをほぐすために伸びをする。
ついでに、眠たさも一緒に振り落す。
「一緒に帰りましょう」
それだけ言うと、彼のためにコーヒーでも淹れてこようかと思い立ち、席を立った。
洗い流されるように昼間より下がった気温。
すぐ近くに彼の温もりを感じて、彼の匂いに満たされて……
そんな帰り道を期待して、空のマグを手に取った。