企画書
□ お題:すみれの砂糖漬け≪二万打記念≫
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今日の遅番は仲間数人が夜の警邏に出回り、朱鳥は上司と二人で詰め所内の事務室で待機していた。
その上司も、先だって道に迷った観光客の案内に席を立っていたが――廊下を行く足音がする、どうやら戻ってきたようだ。
「さっき案内したのが外国人でな、自国の土産だとお礼に面白いものをもらった。目をつぶってみろ」
月明かりだけに照らされた部屋の中。
言われた通りにしてみると、唇に暖かいものが触れ、逃げられないように後頭部を抑えられた。
次いで薄く開いた隙間から何かが押し込まれてくる。
――甘い?
何か砂糖のような、けれども変わった味がする。
それが溶けきる頃、唇に被さっていた感触と頭を押さえつけていた手が離れた。
「もういいぞ」と言われて朱鳥は目を開けた。
口の中に、何やら不思議な舌触りのものが残っている。
それが何なのか、手の平の上に出してみたかったが、それはこの上司の手前、はばかられた。
「何ですか、今の」
「菫の花弁を砂糖に漬けたもののようだ」
では口の中のこれは菫の花弁か、と飲み下しながら得心した。
「もう少し普通に渡せないんですか。何で口移しなんか……」
「ほう、気付いたか」
「いいえ、まさかと思ったので今のはカマかけました。……マジでやったんですか」
うわぁと手の甲を口に押し当てながら、座った椅子ごと引き下がる。
「その反応、傷つくな」
「知りませんよ。莫迦じゃないですか」
現八を軽く睨んだその瞳は、かすかにうろたえている。
何かしら反抗したくて、朱鳥は現八のすねを軍靴の上からそっと蹴った。
「うわー、甘っ。何か口直しが欲しいです。桜の塩漬けとか」
言うと、再び現八が詰め寄り、唇が重なった。
そろりと歯並びをなめ取られ、奥へと押し入ってきた舌が絡み合う。
「……ないんですか」
「口直しならこれで十分だろ。……確かに甘いな」
「だって、砂糖漬けですよ?」
朱鳥が肩を押し返して、唇が引き剥がされた。
それでも顔を近づけたままでいると、彼女の背けた頬が薄く染まっている。
「桜の塩漬け、家に戻ればあるだろうが……来るか?」
「いいえ、エンリョします」
それを聞いて、それは残念と薄く笑うと、現八はペロリと自分の唇をなめ取った。
――ああ、甘い