そのほか
□ 落花流水≪芍薬−相互記念≫
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一日の業務を終えた夕刻。
制服から私服に着替えた朱鳥は、官舎への帰路に着くべく詰所を後にしようとしていた……のだが。
「乾サン、ちょっと……」
「何ですか?」
門にたどり着く前に同僚に呼び止められる。
その彼の指差す先では、詰所の前を少女がうろついていた。
「教会の子、らしいんすけど」
「……うん、わかった」
迷っているのなら送っていってやりたいのだが、今は持ち場を離れられないから代わりに頼みたい。
彼が言わんとしているのはそんな事だろうと察して、朱鳥は引き受けた。
「お疲れ様です」
「お先に失礼します」
互いに敬礼と挨拶を交わして、今度こそ職場を後にした。
* * *
「あの、」
詰所の門を出てすぐに少女の背中に声をかけたは良かったが、向けられたのは警戒の目。
「そんなに怪しまないで。そこに勤めていて、今仕事を終えたばかりなんです。……もしかして、迷子かしら」
弁明と、身分証明の為にすぐそばの憲兵詰所を指差した。
ずっと辺りをうろついていたのだから、そこがどういう場所かはわかっている筈だ。
「あ……。は、はい」
やはり少女は納得してくれたようで、途端に緊張が安堵の表情に変わる。
「ならちょうどいいわ。もう暗くなってきたし、家まで送りましょう」
「え、でも……」
「私もこれから帰るところですし、こっちのことは気にしないで。それとも、嫌?」
恐らく遠慮の言葉が続くだろうその先を遮り、是か否かを問う。
この職に就いてからというもの、この手法を使うことが多くなった。
尋問をするようで後ろめたいが、何より手っ取り早いのだ。
「いえ、そんなことは!……よろしく、お願いします」
が、そんなこちらの懸念に気づくことなく、少女は申し出を受け入れてくれた。
「ふふ、よろしくお願いします」
* * *
まずは旧市街を出たいと言う少女を連れて、道案内を始めた。
「名前を聞いてもいいですか?」
「構わないけれど。……その前に何か、言うことはありませんか?」
「え?あ、私は龍波白水といいます」
「うん、あきなさん……ね。私は乾朱鳥、好きなように呼んで頂戴な」
「じゃあ、朱鳥さん?」
「うーん。それなら、朱鳥でいいかしら」
「朱鳥?」
「うん、それが良いですね」
旧市街の出口、とは一口に言っても無数にある。
郊外に出るもの、新市街や古城区域へと抜けるもの。
教会のの子供、それから白水の着ている服などから、前者では無さそうだと判断すると、朱鳥は目的地にあたりをつけ、白水を連れ立って歩き出した。