Heart Rake

□Heart Rake3
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雨、降らないかしら…




大きなお屋敷の3階にある、60畳ほどの部屋には、大きく作られた天蓋付きのベッドに、壁に備え付けられた本棚、そこいっぱいに埋め尽くされた書籍、バルコニーに出るための大きな窓、勉強をするための机に、ガラス製の猫脚ローテーブルにふかふかのソファ、簡易的なキッチンにバスルーム
何不自由ないような完璧な部屋がそこにはあった

部屋の主はその屋敷の主人の一人娘
主人は有名な外科医で、その娘もまた医学の道に進んでいる
その娘の名は、ジュビア・ロクサー


彼女はいつもバルコニーから見える湖を眺めていた
小さい頃からそれは変わらず、彼女はずっと憧れていた
毎日勉強に明け暮れる日々、病弱な体のせいもあってそれは叶わなかった

彼女が大学生になった頃、いままで誰もいなかった湖に人影を見るようになった
その影は毎日毎日湖にやってきては、読書や日光浴に興じていた
瞳も髪も夜の色をしているが、目はすこし垂れていて優しそうな人、というのが彼女の第一印象だった

いつの間にか、湖への関心が彼への関心へと変わっていった
お屋敷から眺める湖ではなく、彼の眺める湖を見てみたいと思った
彼は何を思って毎日ここへ来るんだろう、何を思って湖を眺めるのだろう
彼女はいつしか、回復した己の体を駆使して
彼のいない雨の日に彼の見る景色を、心を探しに湖へと出かけるようになった
彼女の言った探し物とはこれのこと
猫がくわえて持っていってしまったというのは真っ赤な嘘


「まさか、あの人と会ってしまうなんて…」

グレイ様……夢みたい
いつも眺めていたあの人が、いまは当たり前のように会って、話してお互い笑い合えているなんて



いつしか彼女は

はやく、雨が降らないかしら
はやく、グレイ様にお会いしたい

そんなことを願うようになった
ただ、雨を願った
あんなにも嫌いだった雨、今は待ち遠しい
雨の降る前の匂いも、音も、色も、すべてが恋しく感じてしまう


「ジュビア、いるかね?」

「はい、お父様。どうなさいました?」

「実は見て欲しい患者がいてね…年も近いし、趣味も合いそうなんだ。うちには若い医者がいないからね……」

「わかりました、ジュビアに任せてください」

「ありがとう、患者というのは一年前に心臓の手術をした男の子でね。あれからというもの、ずっと心ここにあらずとい感じなんだ。家族もいないみたいでね、日中はふらふらとどこかへ行ってしまうらしいんだが…」

「早いうちにその患者さんのところへ案内してください」

「あぁ、わかった。できれば今週中にと思っているよ」


突然入った仕事の予定
ジュビアの仕事は心を治すこと
所謂心療内科医
雨の予報はまだ先だけど、お願い
雨の日には……



仕事は話があったその翌日に決まった
父親から渡されたカルテは残酷なもので
たった数枚の紙切れが、ジュビアを絶望へと誘った



カルテには、グレイ・フルバスターの名が刻まれていた

余命1年という文字と共に











to be continue……

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