□第一章
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暫くすると苦しくなりかけていた呼吸もだいぶ楽になってきた。
自己紹介の終わった安堵からかこの場に座っている事に対してもわずかではあるが余裕が生まれ、僕は少し顔を上げた。

自己紹介はもう数人を残すだけという所まで進んでいた。今立って発言している女の子へと視線を向ける。
高めの身長にふくよかな体格の彼女は肝っ玉母さんを想像させた。


『でけぇ女』
『しっ!静かにして!!』

突然ボソッと呟くように聞こえた男の声を心の中で制す。すると彼はあざ笑うように鼻でフッと笑った。

彼、兄ぃは僕のお兄ちゃん。
しかしお兄ちゃんと言っても、血が繋がっているわけではなくお兄ちゃん的存在と言う意味だ。それに兄ぃの声は僕にしか聞こえず、姿も僕にしか見えない。それでも彼は僕にとって、たった一人のお兄ちゃんで大切な存在だ。

「じゃあ次、大滝さん」
「はぁい」

自己紹介の終わった肝っ玉母さんっぽい子が座りその隣の女の子が立ちあがる。

黒地にたくさんのレースをあしらったフリフリフワフワの服。他の人と比べても格段に色の白い肌。窓からさし込む光を受けてキラキラと輝くミルキーブラウンの髪。
ぽっちゃりとした体型ではあるもののその子はまるで人形のような容姿をしていた。そう、良く言うならば外国製の人形のような…しかし悪く言うなら彼女はその場で確実に浮いていた。

ドクンと心臓が鳴り、一瞬息が詰まるような感覚に陥る。
緊張しているのだろうか。昔から男女問わず派手な人達は苦手だった。良くも悪くも目を付けられれば怖いし、服装から顔立ちから性格から僕とは人種が違うように思えていた。

「先生、紙に書いたことをそのまま読めばいいんだよね?」
「そう。他に大滝さんがこれだけは言いたいって事があったら」
「そんなのないよ。えっと…大滝流花(オオタキルカ)です」

茶化すような担任の言葉を笑いながらスルーして彼女は自己紹介を始める。
高すぎず低すぎない声。女子特有のキャピキャピとしたしゃべり方ではなく、少し面倒くさそうな調子で読み進めていく。

「――です。終わり」

短い一言で我に返る。
結局ほとんど聞いていなかった。わかったことと言えば彼女の名前くらい。だけど元々この学校では友達をつくるつもりのなかった僕は特に気にもせずその後数人の自己紹介もボーっとした時間をすごした。
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