05/24の日記

20:48
マリア忍足♀×跡部
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真綿のベット、絹の掛け布団、シルクのガウンにくるまれて、侑子はまぶたを閉じていた。夜二時、跡部が仕事から帰り寝室に入ると小説の入稿が終わったらしい彼女はすー、すーと息を立てている。自身もパジャマに着替え、彼女の横に寝そべった。深い黒の髪がまぶたにかかりとても綺麗だと思う。彼女は自分の妻だ。「つま」そこには素晴らしく甘い響きがある、モノではないと分かっていても、彼女の夫は自分で、彼女が一番に頼るべき相手もまた自分なのだと思うと充足感でたぷたぷと満たされる。
と、ゆっくりと侑子のまぶたが開いた。
「景吾、帰ったんか」
「侑子も入稿終わったらしいな。お疲れ様」
「景吾の方がもっと大変な仕事こなしてきたんやろ、ふふ。私に気を使う必要なんかあらへんのに」
ふふふ、とアルトの声が耳に入り、頭の中枢を溶かす。落ち着いた声は夜と共に跡部に安息をもたらす。子守唄のような微笑みの声は確かにゆっくりと跡部を睡眠へと導くのだ。半分ほど、視界がせばまった。それでも数少ない妻との語らいをもう少し堪能したいと必死に意識を彼女へとやった。
「寝てもええよ」
「駄目だ・・・俺様がお前を眠らせるんだ」
「まーた、意味のわからん意地張って。ほら」
もぞもぞと絹の掛け布団を剥いで、こちらへとやってきた。そして跡部の頭を彼女の胸元へとやった。シルクのガウンから溢れる胸の谷間からミルクの匂いが香ばしい。大きく息を吸い、堪能すると肩の力が自然と抜けた。
「ん、どこに手やっとるん」
「いいだろ。少し疲れてるんだ」
「みたいやねぇ」
また、微笑んだ。そして小さな声で歌を歌い始めた。巻貝を耳元にやったくらいに微かだけれど、とても安心出来るメロディ。
「アヴェ・マリアか」
「昔、音楽祭で榊のおっさんに1人で歌わされてなあ。嫌やったけど覚えてるんや」
「榊先生も流石だよな。お前を選ぶなんて」
「ウチのほかにもっとええ、高い綺麗な声の子いたんにな」

━お前の歌には母親みたいな暖かさがあるんだよ

、と言おうとして跡部は口をつぐんだ。またマザコンのようだと言われてしまう。それは避けたかった。
ふと、侑子の顔を見ると、月明かりに浴びせられていた。そしてその笑みも相まって
「Maria・・・」
「ん?跡部も一緒に歌うん?」
「いや・・・お前のことが今一瞬マリアに見えたんだ」
「疲れとるんやな・・・・ふふっ」

Maria。それは聖女の名であると同時に跡部が10歳の時に死んだ母の愛称でもあった。侑子はマリアンヌという本来の名前しか知らない。Maria、マリアは聖書に登場する処女懐胎をした聖女であると同時に跡部にとって優しい温もりの母でもある。
もう眼には少しの光しか入っていない。感じられるのは侑子の体温、ミルクの匂い、やすらかなアヴェマリア、彼女の柔らかい胸やくびれ。少し寄せるように抱くと頬に胸が圧迫させられた。

━この安らぎが一生続けばいい

跡部はもうすぐ瞼を閉じる。そうしても最後まで侑子はアヴェマリアを歌いきるだろう。
跡部にとっての一番の心のよりどころは侑子だ。跡部にとって侑子は暖かく彼を包む母のようであり、光を導く聖女のようであり、愛し合い寄り添う妻なのだ。彼の全てを侑子は受け入れる。精一杯の愛を示して彼を撫でる。と、彼の唇はゆるんだ。それを侑子は目を細めて、柔らかいまなざしで見つめる。
夫婦の柔らかく清らかすぎるほどの営みを夜は隠してくれる。
2人は夜を愛し、それ以上に互を離そうとしないのだ。

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