05/11の日記

16:57
君を腕に抱くこの瞬間だけ 忍跡
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━溶けそうな髪やんな
忍足は隣に眠る恋人の髪をひと房なでた。それは根元が熱く─夏真っ只中であるため─するりと放っておいたら逃げてしまいそうな生物にも思えた。ふと、舐めてみたい気がした。愛する恋人は自分とは違い、全身の体毛がチョコレートの色をしている。もしかしたら味もそのように甘いのかと、熱帯夜に湯だつ忍足の頭は揺らいだ。

頬を、なでた。先程までの情事の性かほのかに赤みがかった白磁はいつも以上に生ぬるい。そして少し汗をかいていた。無理もない。キングサイズとはいえど、熱を高ぶらせた男2人が夏の夜に寝所を共にしているのだ。産毛と、これまたチョコレートブラウンの体毛が生えた胸板に流れる汗。水分の性でしっとりとした毛は含みきれない汗をにじませている。たまらず少しだけ舌先で舐めとった。ちろりと、口内から興味とともにはいでた舌はその感覚を舌根まで伝え唇を閉ざさせた。はむ、と口にチョコレートブラウンの体毛が含まれた。

━やっぱり甘いんか

夜のせいか、忍足が恋人に向ける愛のせいか、そんなはずないのだが、彼の毛は少し甘く感じられた。そしてじゅじゅっと吸うと更に甘味が増される気がする。忍足は、それはもう夢中で吸った。その体毛に甘味が感じられなくなると、場所を変え、量を変え、できるだけ彼の全てを味わえるように舌を動かせた。不思議なことに彼は起きなかった。時折、んんっとくぐもった蠱惑的なつぶやきを漏らすだけで、はっきりと瞳をのぞかせたり手で忍足の体をおいはがしたりはしない。起きている最中にこんなことは絶対にさせてくれないし、今起きたらどんな罵声を浴びせられるのかというのも妄想し、味のスパイスとして加えた。

━んぁん・・・甘い、甘い、あまいわぁ

味をすくうたびに、舐めとるたびに脳の奥深くで酒を流されるように酔った。瞳も揺れるし、四股はふらつくし、何よりもっともっと甘さを求めてしまう。麻薬のような、何かいけないものと姦通してしまったような。

あおむけになっている限り表面に現れるものの味はだいたいしゃぶりつくした頃、忍足はもう一度彼の隣でブランケットを体にかけた。夏の暑さと甘さのせいでぐわんぐわんと視界も踊る。精根尽き果てたあとだからか、下半身は反応しないかわりに頭が興奮している。熱に羽化された頭は欲望のまま体を動かそうとしてしまう。ふと、一番初めに目にした恋人の髪にもう一度目をやった。枕に垂れるひと房を指ですく。
ぐっと覆いかぶさるように恋人を仰ぎ見た。

手のひら全体ですーーーっと髪をすく。そして先端をちゅぅっと口に含む。なめらかな髪は舌ですくっても溶けることはなかった。が、やはり甘い
━跡部は角砂糖でできとるんやろか

「なにやってんだお前」
「なんや。起きとったんか、いつから」
「お前が俺様の体を舐めてる時にな。おかげで体中ベトベトだぜ」
「怒らへんのか」
「お前の変態趣味にいちいち怒ってたら気が狂っちまうぜ」
「跡部の身体ってあまいんやね」
「・・・・抱きしめてやるから寝ろ」
「随分優しいんやね」
「熱にうなされているようだからな。病人には優しくするもんだろ、アーン?」
「熱なぁ・・・跡部にうなされてるんやけど」
「はぁ、だからもう、寝ろ。そんな甘言いつでも聞いてやるから。明日部活だろ」
「ほな、そうさせてもらうわ。ん」
「なんだよ」
「俺に腕枕させてくれへん?」
「ははっ、勝手にしろ」

繭のような柔らかいブランケット。2人はそれに共に包まれて深く瞼を閉じた。そしてまた共に忙しい明日を迎えるのだ。

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