04/08の日記

11:23
【セイレーンの喘ぎに】忍跡←岳
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疾走。岳人は全力を持って早く逃げようとしていた。
─クソクソクソ、なんで、なんで頭から離れねーんだよ!
目の前の信号が赤になり、止まらざるを得ない。何もすることがなく立ちすくんでいたら、先ほどの光景が頭でまた再生されてきた。

俺は何も悪くなかった。ただ親父と喧嘩して、家を飛び出していつも通り侑士んちいって。そんでインターホン鳴らしても電源切ってんのか鳴らなくて。仕方ねーからポストに入ってる鍵(何ども侑士んち行って場所覚えた)で部屋ん中入ったら、そしたら。

玄関を開けてすぐわかった。喘ぎ声。あんまり高い声だったから最初は侑士、女連れ込んでいんのかと思って帰ろうとしたけど。もう一回聞こえてきた喘ぎ声は知っている人のもんだった。
─なんで跡部の喘ぎ声が頭から離れねぇんだ

跡部と侑士がそんな関係だなんて知らなかった。今朝も何食わぬ顔で朝練してたし、侑士いつもみたいに女振ってたし。
ハァ、ハァ、と切れる声は体力の消耗からくるものなのかそれとも。いつも以上にだらだらと垂れる汗の正体は?

走り続けても答えは出ない。恐ろしかった。俺の知らないところであんな、あんな。まるで父と母の情事をのぞき見てしまったみたいな。
家に着いて廊下を歩いても、親父とお袋は気づいてんのか気づいてないのか何も声をかけてこなかった。いつもなら寂しく感じるけれど、今日はそれがありがたい。
ベットにぼすん、と倒れるとまたあの声が頭に
「あぁぁ!そこはっ・・・、侑士ぃ・・・」
侑士って跡部が呼んでんのはじめて聞いた。そんなどうでもいいことを考えようとしても無駄だ。

熱くたぎった体はその声で処理をしないと。
そのことが一番怖かった。

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11:22
【「おまんは最低じゃな」「お褒めいただきどうも」】仁跡(忍跡)
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跡部は月に一度、妻や部下に何も知らせずにどこかへ出かける。最初は浮気ではないかと疑っていた妻であったが探偵に調べさせると、その相手が男、しかも学生時代の旧友であるとわかったところで胸を下ろした。
実際、その旧友は仮の姿であったが。

「今日はどこ行くん?」
「この前公開された映画はどうだ?お前あーいう甘ったるいの好きだろ」
「せやな。ほないくか」

跡部が助手席に乗るのはこの男が運転している時だけだ。後は後部座席か、運転席に座っている。そのことを男は知りながら優越感を抱いていた。
男と跡部が再会したのは大学一年の秋のことだった。
男ははじめ、中学時代にほのかに思いを寄せていた相手にデートをしてくれと言われ喜んだ。聞けば失恋して傷心の身だという。これはあわよくば一晩ほど相手になれるのではないか、浮き足立っていたのも無理はない。
そしてその日から月に一度こうしてデートをするようになった。
それは跡部が大企業の社長となり、妻が子供を妊娠してからも変わることはない。

跡部は月に一度、忍足侑士とデートをしている。
月に一度だけ、跡部は社長や夫ではなく景吾本人として生きている。それは跡部の心の支え。長年想いを寄せ続けた人物と、今も愛人として会うことができるのだから。跡部は忍足を愛しているし、忍足に愛されていると感じていた。

跡部はとても幸せだ。

そして仁王雅治は、月に一度忍足侑士として生きている。
会うたびに積もり続ける愛の中、想い人を幸せにし続けるために。

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11:21
【極彩色に目が眩む】 忍跡
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─また、だ
ふと生徒会室に通じる、解放された廊下から階下を見下ろしたときのことだった。そこにはよく見知った、日吉と向日と忍足が3人で談笑していた。談笑と言っても、分かりやすく仲睦まじいものではなく。日吉と些細なことで喧嘩した向日が日吉へのあてつけに忍足に絡みついて、日吉は明らかな嫉妬心を向けていた。建前だけの仲違いをする彼らにはよくある光景だ。

あいつらは男同士で好きあっていることを隠そうとしない。
そして2人が喧嘩するたびに忍足は巻き込まれている。
─日吉は忍足が男もいける口だと知ったらどうするんだろうな
おもしろいかもしれないと想像したら、部への支障しかなさそうでげんなりした。あんな風に、向日が冗談で忍足の膝に乗ったり腕に絡みつくのは忍足がドストレートのノンケ野郎だと信じ込んでいる性だ。もし真相を知っていたら、流石に向日だってあそこまでのことはしないだろう。
「忍足は俺と付き合ってるんだよ。ばーか」
シーンとした廊下に跡部の声が響いた。誰も聞いていないとは分かりながらも、そうしたい衝動に駆られた。忍足は向日や日吉に自分達のことを話さない。同じ境遇なのだから話してしまっても構わないのにと跡部は思っているのだが、気恥ずかしくて、それを忍足に言わないままにしている。そんなことを言ったら、独占欲が垣間見えるようで、
他人から見えなくても、跡部の心にきちんと独占欲は芽をはやしていた。もう廊下に5分も立ちすくしているのは、向日が忍足にどのようなことをするのかが気になるからだ。もちろん目の前には日吉という恋人がいるし、そうでなくとも周りに人がいるのだから、膝の上に乗る以上のことをしないのはわかっている。それでも忍足の反応とか、そういうものが気になってしまう。
もし少しでも嬉しそうな素振りが見えたら。
忍足の顔はこちらからは見えない。そのことが一層気に止まる原因になるのだ。

─あ、

忍足が立ち上がった。そして向日を日吉に押しやり、─跡部から忍足の顔が見える位置に向いた。その顔は、

─良かった。

いつも通りの呆れ顔だ。ほっと胸をおろしたのも束の間、忍足は跡部に気がついた。
そして緩められた口元に跡部はときめかずにはいられなかった。

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