短編

□一年に一度だけ
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『シャルルカンッ!』

「ルーシェ!」

気の影からひょっこりと現れれば、待っていたようにシャルルカンが立ち上がった。
うん、久しぶりに会うけれど相変わらず健康そうだし、女たらしっぽい。
全身をじっくりと眺めるとにっこりと笑顔を向けた。


『…変わらないねえ!久しぶりだからちょっとは成長したかと思ってたのに』

「う、うるせえよ!俺は十分大人っぽいんだよ!」

『あはは、どうだか』

で、最近のシンドリアの様子はどう?
んー、変わらないぜ?お前がいた時くらいに王サマも女たらしだし。
いや、別に王様のこと知りたい訳じゃないんだけどね。でもそれじゃあジャーファルは変わらず苦労してそうだね。
あー、まぁそうだな。
シャルルカンはジャーファルに迷惑かけないようにねー?
わ、分かってるよ…。

夕方の中庭でそんな他愛も無い話を話す。
歯切れの悪い返事ってことは迷惑かけてるみたい。

足元に降りてきた小鳥に手を伸ばすが小鳥は気づかず遠ざかってしまった。


『あらら…やっぱダメかー』


ぽつりと呟いた言葉に、シャルルカンは一瞬瞳に影を落とした。
が、傍にいた別の小鳥に手を伸ばし指に乗せるとずいっと私の顔の前に押し出した。


「ほらよ」

『…ありがと、シャルルカン』


小さく鳴く小鳥を眺めているとシャルルカンが小さく笑い声を洩らした事に気がつく。
何?とそちらを向けば、銀色の髪を揺らして「ルーシェも変わってねえじゃねえか」と再び笑った。


「相変わらず動物が好きだな。でも残念ながら動物には好かれてないとか悲しいなァ」

『っ…か、悲しくないし!見てるだけで癒されるもん!』

「そんなこと言いながらシンドリアにきた当初は結構落ち込んでたよな」

『うっ…お、落ち込んでないっ!』


シャルルカンはいっつも適当なことを言う!
ふいっとそっぽを向けば、きらきらと星で輝き始めた空が目にはいる。
あ、と声を漏らせばシャルルカンも気づいたようで。


「時間、か」

『……うん』


時間。
私が帰る時間。

私が、空に。


訪れてしまった静寂を破るように、私はシャルルカンに顔を近づけた。


『シャルルカン、今日はありがと!とっても楽しかった』

「………」

『私が死んじゃってからもう五年かな?シンドリアに来る度に発展してるから私だけじゃ追いついていけないよ』

「………」

『シャルルカンが私を見ることができて本当に嬉しい』

「………っ、ルーシェっ!」


突然立ち上がったシャルルカンは私の腕をつかもうと手を伸ばす。
けれど、この世を生きる人に私には触れられない。

するりと私の腕を通り過ぎ、シャルルカンは空気を掴んだ。


『どうしたの、シャルルカン』


突然の行動に驚きつつもおどけるように尋ねると、シャルルカンの瞳には涙が一杯溜まり、私を写していた。


「いくな、ルーシェ…頼む、俺を置いていくな…」

『……シャ、ルルカン』


ぼろぼろと流れ出した涙に、しゃくりながら心で押し殺していた気持ちを吐露する。
私が出会ってから、私が死んでから成長してきた彼が、子供のように駄々をこねる。


「頼むルーシェ、俺を一人にしないでくれ…!お前がいないなんて…俺は…俺は…!」

『…ごめんね、シャルルカン』


今すぐ抱きしめてあげたい。
涙を拭ってあげながら「大丈夫、私はそばにいるよ」って笑いかけたい。

でも、それはできない。
触れない。
ごめんね、シャルルカン。
ごめんなさい、本当にごめんなさい。


『ねえ、シャルルカン。私はね、あの時死んだことを後悔なんてしてないよ?
それまでが、ずっと幸せだったから。色々迷惑とかかけたかもしれない。短い人生だったかもしれない。
でも、すっごく幸せで、すっごく楽しい人生だったよ?

大丈夫、シャルルカンには明日がある。私に明日はないけど、ちゃんと一年後必ずここに来る。
約束、ね?』


私は約束は破らないよ!と笑えばやっとシャルルカンも笑みを浮かべた。


「…ルーシェの約束は信用できねえよ」

『えっ、何それ酷い!私傷付いた!』

「ははっ、お前それぐらいじゃ傷付かねえだろ」


散々なシャルルカンの言いようにべっと舌を出せば、丁度体が透け始めるのを感じた。


じゃあ、来年ね。
これだけは守るから!絶対来年に来るからね!
シャルルカンこそ忘れないでよね!

分かってるよ!ずっと待ってるっつーの!

女遊びも大概にね!

…分かった。


最後の小さな言葉にシャルルカンらしいと苦笑すると、じゃあね、と私は手を降った。


一年に一度だけ


私たちが会える日。

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