夕焼けの向こう側

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――突き刺した、はずだった。


「・・・・・・やれやれ、こんなに美しい女性を自殺するよう仕向けるなんて、この村はどうしたんだ?」

『・・・!?』


刃を持つ腕は大きな手によって、首にあたるのを防がれていた。

腕を辿って声の主を見ると、











蒼い髪。





金色の瞳。





豪華絢爛な装飾品。











「シン・・・!!どうしてここに」



この人が、シンドバッド。

ジャーファルさんの焦った声に、シンドバッドさんは豪快に笑った。


「尋常じゃない部下を見たら追いかけるしかないだろう?」

「・・・これはどういうことですかな?シンドバッド王よ」

「これはこれは。村長か」


人々の後ろから現れたのは白いひげの生えた老人。
憎々しげに私を見つめるとシンドバッドさんを睨んだ。


「我々のすることに首を突っ込むのですかな?
・・・これは我々の村の問題。あなたには関係ないでしょう」

「ほう、関係ないと。私はあなた方の貿易国として、悪癖をなおして頂こうと考えているだけなのですが」

「減らず口は一人前ですな。流石迷宮攻略者殿だ。
悪癖も何も、これは古くからの村のしきたりです。今更変えることなどできませんぞ」

「変えようと思えば人はいつでも変えられる。あなた達に変える気が無いだけなのでは?」

「ありませんな。誰も不満などもっておりません」

「そう思っているのはあなただけでは?」

「・・・どういうことですかな」


口を挟む隙が無いほどの速さで口論が進む。


でも、シンドバッドさんが一枚上手だと、そう思った。

根拠は無いけれど。
憎々しげな村長に対し、爽やかに笑んでいるからだろうか。


「・・・オリシア」

『・・・・・・』


ジャーファル、さん。


静かに近寄るジャーファルさんを直視できない。


「オリシア」


ごめんなさい。
私には、あなたを見る権利なんてないんです。
死のうとした、私なんかに。



不意に視界が暗くなる。


抱き締めたのだ。私を。



ジャーファルさん、が。


「・・・もう、二度とあんなことはしないで下さい」


心なしか声は震えていて。

どれだけ心配してくれたかが痛いほど分かる。
・・・私がどれだけ浅はかなことをしたのかも。


『・・・・・・』


おずおずと腕を伸ばすと、ジャーファルさんを抱き締める。


――ごめんなさい。
死のうとして、本当にごめんなさい。
あなたの気持ちを考えなくて、ごめんなさい。


ぎゅ、と抱き締められる力が強くなる。

私は彼が落ち着くまで、只抱き締められていた。
















「・・・ところで、皆さんに聞きたいのですが」


二人を見守っていたシンドバッドが民衆を見渡した。
突然の行動に人々はざわめく。


「もし自分がずっと小さな建物に閉じ込められ、毎日虐げられたらどう思いますか?
その、自分を虐げてきた人たちの為に自ら死を選ぼうと思いますか?」


ざわめいていたものが一気に静まり返る。


「彼女は虐げられてたのにも関わらず、あなた方の為に死のうとした。
彼女の気持ちが分かりますか?



――皆さんが大切だったんですよ。

自分が死から逃げるとどうなるか。それを考えて彼女は死を選ぼうとしたのでしょう。

自分達の為に死のうとした彼女に、未だあなた方は死ねと責めたてるのですか?」


誰も口を開こうとはしない。



シンドバッドが再び口を開こうとした時、一組の男女が前に出た。

 
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