夕焼けの向こう側
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ジャーファルさんと別れた同じ日。
昼を過ぎた頃に、急に社の外が騒がしくなる。
普段はこんなに社の周りに人が集まることは無い。
もし、あるとしたら――
『(私が、殺される日)』
どうやら今日が私の命日になるらしい。
死への恐れは何も無い。だって、死が何かすらも私には分からないのだから。
只、一つ心残りがあるとしたら。
ジャーファルさんをもう一度、この目で見たかった。
私に初めて笑みを見せてくれた、忌み子として私を虐げなかったあの人をもう一度見たかった。
どたどたと大きな足音が社に近づき、扉が大きく開け放たれる。
侮蔑の視線。
軽蔑の視線。
たくさんの人の目が集中する。
「・・・よう。今日はお前の死ぬ日だ。よかったな」
何が良かったのか。
私にいい事なんて一つも無い。
村人達が、私が消えて喜ぶのだろう。
「さっさと立て!!」
服を勢いよく引っ張られて無理矢理立たされる。
すぐさま手にはぐるぐると縄が何重にもして縛られる。
「早く歩け!」
ぐいっと引っ張られ、ふらつくと容赦なく頬を叩かれる。
ひりひりとした痛みを堪え、真っ直ぐ前を向く。
只ひたすら、前を。
◆ ◇ ◆ ◇
「お前を処刑するのは今日の夕方だ。それまでに死の覚悟を決めておくんだな」
放り込まれたのは広場にある小さな小屋。
広場には――山を降りるのは初めてだった。
外の世界を見たいという夢が、まさかこんな形で叶うなんて。
出ない声で小さく笑うと、小屋にある窓を見上げる。
――既に空は、紅く染まり始めていた。