夕焼けの向こう側
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どうやら私は殺されるらしい。
首を刎ねれば死ぬだろう、とか様々な会話が小さく聞こえた。
障子にぴったりとくっ付けていた耳を離すとその場を離れる。
そうか。
私はもう直ぐ死ぬのか。
でも。
死ぬ――って何?
息が出来なくなること?
世界が見えなくなること?
何も感じなくなること?
私には何も分からない。
でも、「死ぬ」ということは回避すべきことだと本能が告げていた。
私には必死に生きる理由も無いから逃げ出すようなことはしないけれど。
只一つだけ。
やり残したことがあるとすれば。
外の世界が見てみたい。
冷たい空気。
柔らかな草。
透き通るような空。
聞いたことはあるけれど、実際に目にした事は無いもの。
それが唯一の望みだった。
◆ ◇ ◆ ◇
夜が更け、静まり返った時刻。
体にかけていた粗末な麻の布をのけると真っ直ぐに入り口へ向かう。
身につけるのは真っ赤な着物。
素足だからか、ぺたぺたという音がするがこの辺りには誰もすんでいない。
いつものように行動し、僅かに高ぶる胸を押さえて扉に手をかける。
ゆっくりと扉を引く。
その先にあったのは
濃い青に浮かぶ、月と呼ばれる光る球体。