夕焼けの向こう側

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『・・・・・・』


ひとりできらきらと輝く月に暫く魅入ってしまう。

いつまでもこうして見続けていたいけれど、私が見たいのは月だけではない。

全てが見たい。

世界の、全てが。



黄金に輝く月から目を逸らすと森の奥へと足を踏み入れる。

土。柔らかい土を踏む。


――ああ、これが土。


ほんの些細な、普通の人なら感じないであろう土にも感情が芽生える。

僅かな喜びを感じながら前を見据えていると、ゆらゆらと揺れるナニカを見つけた。



その先にあったのは湖。

辺りは仄暗いが、月の光をうけて僅かに輝く。


水際により、すとん、とその場に腰をおろすと、そっと水に触れる。


触れた指の先にはひんやりとした感覚が宿る。
水をすくって、落とす。

涼やかな音を立てて、水面に波紋を作る。




その波紋を見つめていた時だった。


「――こんなところで、どうしたのですか?」


急に背後に現れた人影。

振り返ると、どうやら男らしい。
見慣れない服――といっても皆どんな服を見ているのか知らないけれど――を着ているようだった。

木々の陰に隠れて上半身が見えない。


じっと見つめていると、此方に近づいてきた。

徐々に姿があらわになる。


「夜中に森の中にいては危ないですよ」


――顔がはっきりと見えた。


月の光を受けて輝く銀髪を持ったヒトだった。






少し。
少しだけの間綺麗な髪に見とれていると、かがんだ彼が言葉を噤んだ。


「迷ったのですか?よければ送りましょうか?」


『・・・・・・』


未だに黙っている私をどう思ったのか。
急に何かに気が付いたように居住まいを正した。


「ああ、すみません。名前を言っていませんでしたね。

・・・私はジャーファルです。よろしくお願いします」


にこっと笑う彼、ジャーファルさんはとても綺麗で。

どうすればいいのか迷っていると「あなたの名前を聞いてもいいでしょうか?」と尋ねられる。





でも、ごめんなさい。





























私には名前も











































言葉も無いんです。


 
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