君が居た。

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「どういう事だよ!?」


ドン、とジュダルは壁を殴る。


ジュダルが激昂している相手は、銀香。銀香は睨んでくるジュダルの視線を真っ直ぐ受け止めて言う。


「何のことでございましょう?」

「楓の事だ!」


ピクッと銀香の眉が動く。


「・・・楓殿に、お会いしたのですか」

「バルバッドで会った。てめぇは楓が死んだって言っただろ、嘘つきやがったのか!?」



ジュダルの周りのルフが荒々しく騒ぐ。

銀香は黙ったまま口を開かない。



ジュダルは大きく息を吸い自分を落ち着けると、それだけで人を殺せそうな、鋭い視線を送った。


















「なんで親父達の手下のお前が楓を庇うんだよ」


















































銀香は「組織」の下っ端である。それは生まれた頃から、ずっと。
彼女は小さい頃から組織に命じられるままに動いてきた。組織の繋がりで玉艶やジュダルと会話をすることもしばしば有った。
私が生きていることに理由なんてない。そんな暗い気持ちを抱え、無感情に毎日を過ごしていた。


そんなある日のこと。銀香を尋ねてくる人があった。




――すみません、銀香殿でいらっしゃいますか?




自分よりも少し年下だろうか。黒いさらさらとした髪と、大きな黒い瞳を持った少女だった。



――はい。私ですが、なんでしょうか。




もしかすると、新たに組織に加わった人間だろうか。そんな気持ちを込め、無感情に見つめると



――私は「神官傍付」の楓と申します。



笑顔でそんな回答が返ってきた。

神官傍付。確か、もうすぐ新たに造られる役職だ。


――神官殿と銀香殿は会話される仲だと聞いたので・・・神官殿がどんな方なのか教えて頂きたいのですが・・・。



組織の人間ではないのか。安堵をつくと銀香は楓を部屋に招きいれ、知っていること全てを教えた。
・・・勿論組織の人間と言うことは伏せて、だが。





それがキッカケだったのだろうか。暫くすると、二人は度々お互いの部屋を訪れるような仲になっていた。


無感情になっていた銀香は、楓の前では少し明るくなれるようになっていた。



――楓殿。全ての人間に、生きている意味は有ると思いますか?



それは、小さな頃から抱えていた疑問。
すると楓はしばし考えるように俯くと、やがて顔を上げて口を開いた。




――分からない。分からないけど、私は、生きている意味は人それぞれが作っていくものだと思います。




その言葉に、銀香は何ともいえない感情に支配された。

生きている意味は自分が作っていく。
生きている意味は、私が作ればいいのだ。



何年も抱え込んでいた小さな、けれど重い疑問。それを楓はあっさりと解決してくれた。


そして、銀香は思ったのだ。








――楓殿が組織に狙われるような事があっても、私はこの人を守ろう。それが、私の生きる意味を教えてくれた、恩人への唯一のできる恩返しなのだから。




と。


 

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