君が居た。

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バルバッド城内、離宮。楓はそこに運ばれていた。



「夏黄文。ジュダルちゃんと楓ちゃんの具合はどうなのぉ?」

「神官殿は順調に回復していますが・・・楓殿は依然のままであります」

「そう・・・」


夏黄文の眷属器は怪我を治癒させる。最初はそれで治療を行っていたが、今はきちんとした治療班が二人の世話を行っている。



「神官殿は大怪我なのですが・・・何故か怪我の治りが早いでありますね。
対する楓殿は外傷はほとんど無いのですが神官殿より危険な状態であります。
神官殿は恐らく今日か明日ごろには目を覚ますかと」



神官殿の怪我の治りが異様に早い。

夏黄文は、その事実が何か引っかかっていた。マギたるジュダルが怪我をすることは滅多になく、今回は異例の事態。
・・・それだけでは片付けようの無いナニカがあるような・・・。






「?神官殿、先ほどまで頬に傷がありませんでしたか?」

「あ?気のせいだろ。今はねぇだろ?」

「そうでありますが・・・、見間違いでしょうか」








そうだ、確か昔にも・・・楓殿が煌帝国にいたときに神官殿の怪我が跡形も無くなくなっていた様な――?








「夏黄文?」


「!?は、はい何でありましょう、姫」


紅玉の声によって意識が引き戻される。


「楓ちゃんのことだけど・・・お父様やお兄様にはまだ報告しないで」

「・・・はい?」


珍しい。兄を慕っている紅玉が、その兄達に言うなと言うなんて。



不躾にも夏黄文がまじまじと見つめているとちらりと視線があう。



「楓は煌帝国に忠誠を誓っていたのよぉ?それなのに、死んだといって煌帝国を抜け出していたなんて、きっとなにか理由があるのよぉ」

「そうでありますね」

「ジュダルちゃん達を助けた時に一緒に居た兵士達にもしっかり口止めしておいてねぇ」

「了解しました」




そう言って退室する夏黄文。





――楓殿の存在を黙っているのは、賢明な判断だと思うであります、姫君。




恐らく、ジュダルの治癒の速さは楓が何か施したのだろう。
楓は魔導士ではなかったが、もしその力に目覚めていたとしたら?
その力でジュダルを治癒させていたのだとしたら?




それが事実だとしたら。もしそれを本国へ伝えてしまったら。
本人の意思は関係なしに、煌帝国へ強制的に連れ戻されるだろう。
それはあまりにも可哀相だ。





――私には関係の無いことでありますが、姫君の命なので仕方なくやっているだけであります。





そう自分を納得させると、あの時共に居た兵士に口止めをしていくのだった。

 

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