テニスdream
□family
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俺の親父は腕無し大工だった。
両腕を持たないのは産まれつきのもので、その代わりに体が柔らかく足を器用に使っていたので、産まれてこの方何分不便に感じていなかったらしい。
人間の五体の内二体も不満足の中で大工という役職に就けたのは、ほとんど奇跡じゃないだろうか?
けれども俺は、親父の仕事姿なんて一度も見た事がなく。
否、むしろ見ようと思った事がなく。
それは俺と親父が極端に不仲だったからだ。
親父と言えば、無愛想で口数が少なく意地っ張りでいて、他は何でもこなすクセに性格の面ではやたらと不器用で。
まさに子は親の鏡。
似た者同士、不器用同士、合わないっていうのも一理ある。
でもそれだけの理由じゃない。
俺が小さい頃に受けたいじめ。
子供って残酷なまでに素直で、無邪気で、異質を受け入れない。
俺の親父は子供達にとって、ある意味人間的じゃなかったんだ。
本来持ってして産まれるべきものがない。
その滑稽な様と元々の強面があいまって、親父は怖がられるようになった。
ただそれは決して直接的なものではなく、息子である俺が標的にされた。
俺は幼いながら傷ついた。
そして行き場のない怒りの矛先を、無害の父親へと向けることになる。
まだガキだった俺の思考回路は自分を守るだけで手いっぱいで、罪を誰かになすりつける事で逃れようとしていたんだ。
どんなに俺が暴言を吐こうが、嫌悪しようが、親父は俺を叱りつけるようなマネはしなくて。
けれど子供の俺はそれがまた不服でもあった。
何の反応も返さない親父を、俺に興味が無いのだと勝手に信じ込み。
繰り返す中でどんどんと親子の仲はさけていった。
深い溝に囚われ、お互いの存在さえ打ち消し合いながら生活するようになった頃。
あの親父が、死んだ。
仕事中に足を滑らせて真っ逆さまだと。
あの足の器用な腕無し大工が。