テニスdream
□反対言葉
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「日吉くんって素直じゃないね」
その言葉だけでも癇に障ったが、何よりも俺を見て堂々と言い放ったあの態度が一番気に食わなかった。
「先輩のことを偽善者だと言ったのがですか?それとも、跡部さんに近づきたくて俺にかまってると言った事ですか?俺はただ思ったことを言っただけです」
「でも本心じゃない」
なんの根拠もない事をハッキリと俺へ切り返してくる。
先輩はいつだってそうだ。
俺のことは何でも知ったような口ぶりで、時には俺自身さえ分からない事までも見透かしているように。
「俺の口から出る言葉が本音であって欲しくない。それは貴方が勝手に思い描いてる理想像でしょう。俺にはなんの関係もない」
「関係あるの!」
強く遮られてしまった。
こんな風にムキになって俺へ反発してくる先輩を見るのはこれが初めてで、皮肉の一つも出てこない。
呆気にとられてしまうとはこの状況か。
「ごめん、大声出して」
「、いえ」
取り乱してしまったのが恥ずかしいのか伏し目がちになる。
薄い瞼、艶のある長い睫、何の意味もなくただ触れたい衝動に駆られる。
細いため息が聞こえ、先輩は落ち着いたいつもの表情で俺を見て口を開いた。
「日吉くんはさ、いつも私にキツイ事言ってくるけど、それを言った後自分がどんな表情してるか分かってないでしょ?私なんかよりずっと自分自身で言ったことを後悔してる。素直じゃないくせに解りやすい」
『“目は口ほどに物を言う”ってね』とクスクス笑っている。
俺はグウの音も出せずに顔に集まった熱を見られまいと後ろを向いた。
「日吉くんにかまうのは日吉くん以外の人に善い人に見られたいからなんかじゃない。…それに、会長だって私はどうでもいいの」
そこまで言っておいて何も言わなくなってしまう。
というよりも、ここまできて言えなくなったらしい。
いつも余裕が有るふりをしていたくせに、俺に負けず劣らず不器用な人だ。
最後の詰めにかかって余裕の“よ”の字も出なくなるなんて。
だけど、いつもは先輩に言わせてきた。
今日くらいは俺が代わりに言ってあげますよ。
素直じゃないけど
うまくは言えないけど
きっと先輩にならどんな不器用な言葉でも伝わるだろう。
「貴方を前にすると思ってることと反対の言葉を言ってしまう。何故、でしょうね?」
先輩の手は予想よりもはるかに小さく、俺が手を重ねると見えなくなってしまう。
小さくて温かくてやわらかい手を握って、逃がさないように。
いつもとはまるで反対。
俺は余裕の笑みで先輩を見つめ、先輩は耳まで真っ赤に染まって俺から逃げようともがく。
「そういうのズ、ズルイッ!嫌い!!」
「あぁそうですか。桜先輩って素直じゃないですね」
「っ」
「分かってます。俺も先輩のことが好きですよ」
反対言葉
(イタッ!ちょっ先輩叩かないでください!そんなに怒ってるとブサイクに見えますよ)
(もうっ!!)
(不細工な表情も嫌いじゃないですけど)