テニスdream

□臆病者
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「長太郎は優しすぎるよ…」




君が泣いたのを、俺は初めて見た。
いつも強がって弱さを人に見せようとしない君が、流れる涙を隠さなかった。



「嫌なら嫌って言ってよ…私の気持ちだとか、私の幸せだとか言う前に…っ」




そんな君に俺は何も出来ない。

抱きしめてあげる事さえ、涙を拭ってやる事させ、君に触れる事さえ出来ない。


ただ立ち尽くす。






「好きなら少しは怒ってよ……」







君が他の男と並んで歩いていたのを見て、親密そうに寄り添っていたのを、息がかかりそうなほど顔を寄せ合っていたのを、俺は黙って見ているしかなかった。


どす黒い感情が自分を取り巻いていく。
抑えきれない衝動で何もかも壊してしまいたくなる。
深い海の底に突き落とされたような、絶望と孤独。



なのに俺の体は動かなかった。

見て見ぬふりをした。



「ごめん…」

「何で謝るの、悪いのは私なのに…長太郎は何も、悪くないのに」





君がたとえ他の男を好きでも、俺の事をもう愛していなくても、それでもいいと思った。

誰と居ようが何をしようが全て赦せた。






「ごめんね長太郎、…ごめん、本当に、ごめんなさい……っ」





でも、こんな風に君が泣くなんて、思わなかったんだ。



ずっと怖かった。

君を愛し始めた時から。



君を好きになっていく事も、君にいつか嫌われてしまう事も。



だから優しいフリをして。
君に嫌われないように。







なのに愛しい君を、こんなにも悲しませていたなんて、知らなかった。











「別れよう」














きっと俺は、君を本気で愛する事さえ怖かったんだ。






俺が最後に君に告げた言葉は、今まで苦しめてきた最愛の人への、せめてもの罪滅ぼしだった。

泣かせてしまった事への。
君に嫌われる為の。




もっと上手に愛したかった。


君を強く抱きしめて離さなければ、良かったのに。








そんな思いはもう永遠に君へ届きはしないだろう。









臆病者

(俺はただの臆病者だよ…)







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