はじまりはじまり

□0214企画 
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pm06:50。部活終了。
汗を拭いてさっと着替えて一足先に「お疲れーす!」と体育館をダッシュで去った。
呆れ顔の越野たちをさて置いて…。



「ごめーん名無しさん!さあ帰ろう」
「おっびっくりしたぁ!」


教室のドアを勢いよく開けると名無しさんの肩がビクッと動いた。あはは、可愛いー。
帰り支度をする名無しさんに歩み寄って、ひとつ前の席へ向かい合うように座った。


「今日は遅かったね、部活」
「試合が近いからなぁ。名無しさん待ったでしょ」
「うん待った」
「ごめんな?帰り肉まん奢ってやろうか」
「いーらない」
「ええ何でだよ?ダイエット?」
「んーん全然」
「そんだけ痩せてればね」
「そうじゃなくて」


名無しさんの頭に手をのせた。
きれいな髪がするんと俺の手をすべる。
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑う名無しさん。
その姿に何とも言えない愛おしさがこみ上げてくる。


「名無しさん、好きだよ」
「はっな、何言ってんの彰!ここ教室…」
「良いじゃん誰もいないんだから」
「もう」
「やーい恥ずかしがり屋」
「くうう…!」

名無しさんの顔が俺の一言で真っ赤になった。いつもそう。
だからついからかってしまうんだけど。ぷぷ


「そうだ彰!」
「え、何急に?」
「聞こうと思ってたんだけど、今日チョコ!チョコ貰った?」
「チョコ?いや、全部断った」
「本当に?」
「当たり前だろ。名無しさんいるし」
「エラいエラい!頑張ったねー彰」


話は突如チョコへと変わり、何故か名無しさんが俺の頭を撫で始めた。ニコニコしながら…。

しかし断るのも楽じゃなかったぞ。
休み時間の度に女子に囲まれ、断っても追いかけてくる子や泣いちゃった子、怒り出したのもいたっけ…。
変に疲れた1日でした。


「でも名無しさんのために戦い抜いたよ、俺」
「学年問わずモテモテの彰がね。すごいね」
「だから名無しさんからのチョコないの?」
「勿論、あるよ」


えーと…。バッグに手を入れてガサゴソと探し出した名無しさん。
やった!名無しさんの手作りチョコが食べられる!

「あった!はい」
「お!やっ………た」
「…ん?どうしたの?」
「…。どうしたのって。どうしたのって名無しさん、これって」



板チョコじゃん!!
何で、どうして?
いやでもハイミルクだよって、ごめん今そこじゃない!
何で、どうして板チョコ?
今日俺あんなに頑張ったのに、名無しさんのチョコ楽しみに頑張ったのに…。


「あああやばい何か泣きそう」
「彰ったら分かってないなぁ」
「え?」
「この板チョコはね、彰のためにとどんな人が作ったどんなチョコよりも!深ーい深ーい…私の愛情が込められたチョコなのよ。分かった?」


それ、買ったは良いけど作んの面倒だった結果の板チョコなんじゃないの?
帰ってきた板チョコなんじゃないの?ねえ名無しさん。
しかもそんなどや顔で言われると…


「あああまじで涙出そう」
「もー!そんな膝抱えて丸くならないの!彰を思って買ったんだから同じでしょ!はい」


パキン。
名無しさんがチョコを割って俺に差し出した。
俺は渋々いびつな形のチョコを受け取る。

パキン。
名無しさんの持っているチョコが割れる音がした。
それを自分の口へと入れた。


「わ…私も好きだよ。彰のこと…誰にも負けないもん」
「名無しさん…」


いつもは恥ずかしがって言わない名無しさんが、俺を好きだと…言った。
ドキッとした。
急にたまらなくなって、俺は身を乗り出した。



「ねえ、名無しさん…俺今日頑張ったからご褒美」
「え?」
「ご褒美ちょうだい、名無しさん」
「あ、あき…っ」



彼女の体温で少し溶けたチョコを、
そっと舌で絡め取る。

それは今まで味わったことのないくらい、
甘い甘いハイミルク…。













(そのぬくもりが愛しくて)
パキン
はい、次名無しさんやって?


H a p p y
V a l e n t i n e!
0214仙道


tochi

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