はじまりはじまり

□0214企画 
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「これあげる」


そういって机の上に無造作に置かれたのは、小さな箱に入ったチョコレート。
俺は書いていた日誌を止め、同じ当番の名無しさんを見上げた。


「え、何だよ」
「もう必要ないからあげる、牧」
「…俺に?」
「義理だけどね」

名無しさんは笑いながら俺の向かいの席に座った。
最後の一言がやけに痛かった。けどその前の言葉も気になった。
もう必要ないっていうのは…。

「他の奴に渡すはずだったのか、名無しさん」

そのまま暫く黙り込む名無しさん。図星だ。
俺の予想だと、多分あの辺の…。


「良いの!もう!あたしじゃないから!」
「え?」
「あいつが振り向く相手は、あたしじゃないから」



名無しさんは俯いたままスカートをぎゅっと握っていた。
渡そうと思っていた矢先、の出来事だったのだろうか。こりゃあまずかったな。

「…すまん」
「んーん、別に」
「でも、俺が貰っていいのか?」
「うん。牧なら良いよ」
「そ、そうか…」


またもやひっかかる最後の言葉。
一体どういう意味なんだろうか。
名無しさんの一言一言につい反応してしまう俺。
気を紛らわすように、再び日誌を書くべくペンを取った。
その様子をただじっと見つめる名無しさん。


二人きりの教室。
時計の音と俺のペンを走らせる音だけが響いた。
名無しさんは俺を見るわけでもなく、うまっていく日誌を見つめている。
…結構引きずってるのだろうか。


「ねえ」
「おう?」
「牧はさ」
「ああ」
「好きな人いないの?」
「………。え?」


沈黙を破った名無しさんから突如、出てきた言葉に俺はそのまま固まった。


「どうした急に」
「牧ってモテるからさ、彼女いたりするのかなと思って」
「彼女はいないよ」
「は?はって何?じゃあ好きな人はいるんだ!キャー!」


一人で何始まってんだよ?思わずため息が漏れた。
けれどその時に、俺の真ん前に座っている名無しさんが、ものすごく…可愛く見えた。


「まったく…」


自然と口元が緩んだ。
胸の奥に何かがこみ上げてくるのを感じた。

俺はゆっくりと日誌に目をやる。


「…いるよ」
「え、ウソまじ!誰誰ヒント!」
「ヒントっておまえ」

何でこんなに目がキラキラしてるんだ?
明らか楽しんでるな、こいつめ。


「そうだなあー…」

日誌の最後に、当番の名前を書く欄がある。
左、牧紳一。


「ヒントは…」
「うんうん」

右…。



「今俺に、本命の義理チョコくれた人」


可愛いこいつの名前。


「さ、終わった。帰ろう」
「……あ、ぇぇ、あの牧」
「ははは、名無しさん顔赤いぞ」
「だだだ!だって!」
「俺が振り向くのは、お前だけだ」
「………はああぁ!?」
「ほら職員室行くぞー」












( 当たり前のように繋いだ手)
あ、先生には内緒な?



H a p p y 
V a l e n t i n e!
0214牧

tochi

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