はじまりはじまり
□お題より
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ガチャ…。
ドアが開いた音がした。誰か入ってきたらしい。ゆっくりと重たい瞼を動かす。
「おはよう名無しさん。具合どう?」
「ぁ、アシュトン…はよう」
「寝起きも可愛いね」
「あのね…」
ごめんごめん、と笑うアシュトンの目は心配そうに私を見てる。
指輪をもらったあの日、調子に乗って日暮れまで話してたら風邪をひいてしまったという、何とも情けない事態。しかも私だけ。はあ…
「大丈夫、すぐ良くなるよ」
「だといいな」
アシュトンは近くにあった椅子に座り、私の額に触れる。熱のせいで彼の掌が冷たく感じた。ちょうど心地好い。
「うわ、名無しさんまだかなり熱いじゃんか」
「これでも少し下がったんだよ」
「やっぱり僕にうつして」
「やだ」
「わがまま言ってる場合?」
「アシュトン看病するのめんどい」
「えええそっち!」
予想以上に驚く姿が面白くて、ぼんやりする意識の中でも笑えた。アシュトン、本気で落ち込んでるよ…ふふ。
「僕は名無しさんが病気でも何でもへっちゃらなのにな」
「本当?」
「本当だよ、僕の一番大事な人だから」
「アシュトン…」
「名無しさんの為なら僕は何だって出来るよ。何でもしてあげたいさ」
「アシュトン」
「何だい、名無しさん」
「…熱あるんじゃないの?」
「えええだからそっち?!」
「ぷぷ」
おかしいな、体はツライはずなのに。アシュトンといると、手強い風邪も忘れちゃいそう。私が冗談で額に当てた手を、アシュトンが優しく握った。
その手はまだ、相変わらず絆創膏だらけ。よっぽど練習してたんだね。不器用なアシュトン君…。
「そうだ。見て、名無しさん」
「何?…あ。」
「昨日作ったんだ。どう?名無しさんのより上手くいったでしょ」
嬉しそうなアシュトンの右手には、この前私がもらったのと同じ、不細工な指輪。
だからまた、絆創膏したって訳ね。
私は布団から右手を出して、アシュトンの右手とくっつけて見比べる。
「まるっきり一緒じゃん」
「そ、そんな事!…ない…」
「どっちもひどいです」
「くそうぅっ」
「でもうれしいな、お揃い」
「えっ」
傷だらけのアシュトンの右手をそのまま握って、「ありがとう」と呟いた。
どんなに形は悪くとも、彼の思いがぎゅっと詰まってる。
私にとって、それが一番の贈り物であり、幸せ。
「名無しさん、1日も早く治してね」
「頑張るよ」
「治ったらまた、たくさん愛してあげる」
「…変態」
「だから名無しさんそっちじゃないってばー!」
(日 々 実 感)
君を好きだ、ていうこと
心優しき戦士アシュトン。最高!
tochi