はじまりはじまり

□お題より
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「あ、名無しさんー!こっちこっち」
「急に何よ」
「まあまあまあ。はい隣座って」




最近めっきり顔を合わせてなかったアシュトンからの呼び出し。空は青と赤の二色に分かれ始めていた。
夕焼けの眩しい光を浴びながら、私はしぶしぶ彼の隣へ座る。


「何か用?」
「アハハ、名無しさん怒ってる。ごめんね、暫く会えなくて」
「別に怒ってない」
「じゃあこっち向いてよ」
「やだ」
「こっち向いて」
「やだよ、」


アシュトンに肩を掴まれ、簡単に向かい合わせにさせられた。
久しぶりに見る彼の顔。一瞬どきんとしたのは、きっと夕焼けのせい。

「ちゃんと理由があるんだよ」
「…理由ってどんな」
「名無しさんに、渡したい物があってね」


渡したい物…?
するとアシュトンがポケットから取り出したのは、一つの小さな箱。またふいに、胸が高鳴った。

え、うそ、これって…。


「ア、アシュトン…」
「今日が何の日か、名無しさん知ってる?」
「今日、今日は私の誕生日」
「ピンポーン大正解!じゃあ、この箱の中身は一体何でしょうか」
「これは…」


アシュトン、まさかこれを、作って?ああ、胸が、苦しい。けれどすごく心地好い。


「じゃあ開けるよ」
「うん」
「せーの、じゃじゃーん!」


アシュトンがゆっくりと箱を開けた。期待に輝いていただろう私の目に入ったのは、きれいでもお洒落でも何でもない、不細工な指輪。

いつしか目が点になっていた。



「…ごめんよ名無しさん。僕細工とかって得意じゃなくてさー。頑張ったんだけど、ね」
「……?」


困った顔で笑うアシュトン。よく見ると、両方の指にはたくさんの絆創膏が巻かれていた。
今までずっと、私の為に作っていてくれた事が、一目で分かった。

「…バカ。普段しない事やるからよ」
「そ、そうだよね」
「はい」
「…え?」

右手を差し出す私に、アシュトンは瞬きをする。


「指輪。して」
「名無しさん、」
「だってこれしかないんでしょう。アシュトン早く」
「うん」


嬉しそうな顔。アシュトンは私の薬指に、そっと指輪をしてくれた。
そしてそこに、キスをひとつ。


「これからも一緒にいよう、名無しさん。もう大好き!」
「ぅわっ」



笑いながら私を抱きしめるアシュトンは、やっぱり夕焼けのせいじゃなかった。







(ずっとずっと、二人ぼっちで)
H A P P Y
B i r t h d a y!




アシュトンはこうでなくちゃ!
tochi

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