薄桜鬼

□狡い人。完
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〜一くんの恋人〜


『やはり行かれるのですか?』
「あぁ」
『..どうしてもですか?』
「あぁ」

この会話を何回繰り返したのだろうか
それでも貴方の返事は変わらない

『もう、良いではないですか!!貴方は十分に忠義を尽くしました!』
「...」
『貴方が傷付く必要はもう無いのよ!..死ぬ必要も無いのよぉ...〜っ...』

涙は溢れてくるばかりで何の役には立たない
貴方には女の涙も通じないのだもの

「..すまない」

分かってるクセに私が欲しい言葉は謝罪じゃないのを

『貴方は、狡いお方..』
「愛している」
『本当に狡いお方だわ...私もお慕いしております。一さん 』

この言葉は貴方にどれ程の重みがあるのですか?

「お前もかなり狡い女だ」
『お互い様です』

私達はお互いに欲しい言葉を知っていて言わない
いいえ、言えないのです

《置いて行かないで》
《必ず帰って来る》

貴方はわざと自分の物を残さない
私は行かないでと素直に言わない

「では、行ってくる」
『....はい』

ガラガラ

戸を開けると外はまだ暗く
寂しさが強くなる

「体には気をつけろ」
『...はい。一さんも、お気を付けて』

ちゅっ

一さんは私の額に口付けると背を向けて行かれた
あぁ貴方は私には何もさせてはくれないのですね

貴方の服にあった瓶
貴方は何も言ってはくれなかったけれど
あれは貴方にとって良いものではないと
何と無く分かっていたの
でも、あれを手放さなかったと言うことは
それが貴方の答えなのでしょう?

『あぁ、もう貴方には、一さんには会えないのですね...この世はこんなにも残酷で..儚い』

あぁ涙は静かに流れ止まらない
最後まで言えなかった事がある

《私達を置いて行かないで》

もう、貴方の命は独りの命では無いのに

『この子は父の顔を知らず生きて行くのですね』

酷い人。
でもそれ以上に優しいお方でした

『貴方は十二分に武士でございます』

真似事?
いいえ、私はあの方以上に武士の志がある者を知りません

『一さん。散るときは共に在りたかった』

貴方を

一さんをこの命尽きるまで

愛しましょう

次の世でもお会いしとうございます




【これは哀しい不器用な二人のお話し】



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