1
□お姫様と王子様 第三幕
1ページ/8ページ
落ち着かないとばかりに部屋を往復する。普段から落ち着きの少ない彼女ではあるが、明らかに何も手がつかないと訴えるような動きは珍しく、そしてその原因を知っているメイド達は微笑ましく思い笑う。
ちらりと彼女は外を見やる。至るところに立つ大きな木は、綺麗な淡いピンクの花を咲かせている。所々同じ種類でも違う木が混じっているせいか、色の濃い花も見えた。見れば目を奪われてしまう桜に、彼女は頬を緩めた。
早く見せてやりたいのだ。
今から心を弾ませて、今日この国に訪れる者のことを思った。まだ出会って二回しか顔を合わせていない異国の王子だ。実は婚約者になる相手だったのだが、お互いに保留を望んだため、今はまだ正式な関係ではない。
それでもお互いのことをもっとよく知りたいと思ったこともあり、数週間前には彼女一人でその王子の国へと訪問した。そして今回は、王子がこの国へ訪れる日だ。
出会った時の約束も兼ねて、この国の名物である桜を見せるのが一番の目的だが、それ以上に彼女は早く彼に会いたくて仕方なかった。
婚約はしていないのに、彼女の様子はもう恋人を待つ姿そのもの。メイド達はにやにやと笑っては彼女を暖かく見守っていた。
「さーくらチャーン」
「む、刻君。久しぶりなのだ」
「そう? 一ヶ月前にも来たヨ。それより何そんなにそわそわしてんノ?」
前触れもなく訪問しても気にもならない彼は、このブロッサム国と古くからの友好関係を結ぶマグネス国の王子だ。幼い頃から共にいたせいか、まるで兄弟のように話せた。キラキラと綺麗な金髪をし、少し小柄だがそんなことも思わせない綺麗な顔をした彼に、桜は無邪気に微笑んだ。
「これから零が来るのだ」
弾んだ声音で呟かれたその名前に、刻は口を思いきり引きつらせた。明らかに嫌悪感を醸します表情に、思わず目を見開いてしまった。以前に面識のある呟きを聞いてはいたが、人当たりのいい彼がここまで感情を露にするのは珍しい。一体どのような関係なのか。
「何だヨ。上手くいっちゃってんだ、桜チャン」
「と、刻君? 一体何を不満そうにしてるのだ?」
「べぇっつにー。ただ、桜チャンがあんなどうしようもないあいつと仲いいの、何か納得いかないダケー」
何が納得いかないのか。ますます桜は理解出来ない。頭に沢山の疑問符を浮かべつつも、彼の機嫌をどう直すか考える。
「一体何があったのか知らんが、零はいい奴だぞ。刻君も一日共にしてみたらどうだ?」
「ゴメンだね! 桜チャンと夜まで二人っきりなら考えるケド」
「わ、私とこれ以上仲良くなってどうするのだ!」
「そんなの決まってるジャン。いいコト、じゃないの?」
「?」
王族らしからぬ発言に桜はますます顔をしかめた。下品な、と思う以前に彼が言ってることが何も理解していないに近い。そんな様子を半分は予想していた刻は、小さく溜め息を溢した。