KYO

□狼狽え
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一人だったはずの旅がいつの間にか大所帯になった。毎日毎日、喧嘩やおふざけ等騒がしい日々を送るようになってどのくらいになったのか。すっかりこの日々に慣れていた彼女は、丁度良く宿が取れ、一人で静かな夜を迎えると昔のことを思い出してしまう。入浴を済ませ、それぞれの部屋に入った後、彼女は夜空を眺めながら考えに耽っていた。

「兄様…京四郎…」

思い出すのは少し前に共に旅をした友と、自分を育ててくれた兄の姿。一人になるとつい考えてしまう。大好きだった兄。そしてその兄を殺した優しい京四郎。どうすればいいのか。どうすれば彼を恨まずに済むのか。
優しいと信じたい彼。だけど兄を殺した事実は消えない。信じたいのに許せない。そんな思いがぐるぐると回る。
考えたくもないのに頭に浮かぶ二人の顔にゆやは頭を振っては思考を打ち消そうとした。

「さっきから何やってんだ? チンクシャ」

「…っ!? 狂! な、な、何見てんのよ!」

窓際に座っていれば隣の部屋の狂も同じように座っていたようで、手すり越しに目線が合った。互いに部屋の明かりは消しているが、今夜は満月で月明かりだけでも互いの顔が良く見えた。深刻な顔を見られたと気づいて、咄嗟に顔を伏せて叫んだ彼女に、狂は微かに眉を寄せた。

「何辛気クセー顔してんだ」

「べ、別に何でもないわよ!」

「ハ、まあ餓鬼なオメーは、そういう顔してる方がまだ大人っぽく見えるかもしんねーな」

「なっ! 何ですってえええ!」

いつもの意地悪い言葉にゆやは頭に血が上る。柵からを身を乗り出して届かない手を振り回すが、もちろんそれを涼しげな表情で見つめる彼。クック、と喉で笑っている姿にゆやははっとした。また、彼は自分の為に気分を紛らわしてくれたのだ。
理解すると肩の力がどっと抜けた。大人しくなった彼女に怪訝表情をして狂は顔を覗く。

「チンクシャ?」

「……っバカ」

彼の優しさに気付かなければこんなことにならなかったのかもしれない。だけど、気づいてしまうと、逆に心にジンと熱いものが込み上げてくる。もう何も声に出来なくて、出てくるのは熱い涙だった。

「………何泣いてやがる」

「っ! うっさい、ほっていてよ!」

涙を零しながらもそう声を張る姿に、狂は深い溜め息をついた。呆れられた。そう思うと心が重くなる。本当は彼の前で泣きたくなどなかった。こんな顔見せたくなかった。
泣き止め! そう心で何度も自分に言い聞かせるが、涙は止まる様子が無かった。
狂はもう一度溜め息をついて部屋の中に入った。辛気臭い顔をこれ以上見たくなかったんだろう。そう思ってゆやは涙を拭いながら自嘲する。

本当、私可愛くない。

何も言わずに淋しいとか、辛いとか、思っていることを訴えればまだ可愛気があるのかもしれない。そう思うけど、言えるはずもない。そんな素直な性格をしていないのだ。
わかっているから、嫌になる。



 
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