KYO

□狼狽え
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今、こんなにも不安になって苦しくなったってどうしようもないのに。
全ては京四郎に会って話を聞かないことには何も進まない。だけど、京四郎と会うということは、その時狂は一体どんな状況にいる時なのか。考えなくてもいいことまで思考が回って更に不安に駆られる。当分眠れそうにない、そう思って泣き止むことさえ諦めた。

「たく、世話のかかる」

「え…?」

涙を流したまま空を見上げようとした彼女の視界には、黒い物が掠めた。いつの間にか彼女の部屋に入り込んでいた狂は、眉間に眉を寄せながら、彼女の腕を引いた。突然のことに対応できず、力のままに体を動かせば、温もりに包まれた。

「ちょ、狂!?」

「うるせー。ウゼーんだよ、隣で泣かれてると。さっさと泣き止め」

ぐっと、抱き寄せられる腕の力はとても強くて、ゆやは目を見開いた。いつも低く、落ち着いた声音の彼が、泣き止めという言葉だけは妙に早かった。

焦ってる?

そんなはずがない。そう思ったが、その方が彼女にとって嬉しいことなので、今はそう思うことにした。
思いがけない彼の行動に心臓が少しずる早まる。涙はまだ止まらないけれど、包まれる温もりに落ち着いてくる。聞こえる彼の鼓動がまるで子守唄ようで、当分寝れないと思っていたのに急に睡魔に襲われた。

「………がと」

涙を流しながら目を閉じて、意識が夢の中に消えてしまうその一瞬、彼女は聞こえないくらいの小さな声でお礼を述べて、そのまま眠ってしまった。
寝息を立てるゆやに、狂は深く息をついてそのまま彼女を布団に運んだ。

「テメーは笑ってればいいんだよ、バカ女」

聞いてないことをいいことに、今まで出したこともないくらい優しげな声音でそう呟いた彼は、そっと彼女の前髪を撫でた。
月明かりが部屋を照らす。その明るい光を彼女の部屋から眺める彼は、隣で眠る彼女の幸せを自分でも気づかないうちに願い、目を閉じた。



 
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