□全然健全じゃない愛
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「……今日は、何が不満だったんですか」


ここに来て二年。7歳になった私は更にグレた。私のために与えられた部屋にあるものすべてをグチャグチャにして、黒霧さんの目の前でバーのお酒や食器を叩き割った。反抗期にしてはいささか早すぎでは、なんていう黒霧さんに更に苛立ちが募る。

二年のうちでわかったことがある。それは2人は私自身になんの興味もないということ。必要だったのは、私の個性だけ。去年まで感謝したはずのママと同じ個性は、今の私にはうっとおしく感じた。私はこの個性を持って生まれたせいで、人生が狂ってしまったんだ。



「……どこに行くんですか?」
「どこだっていいでしょ!!」

バタンと乱暴に閉めれば扉の向こうからため息が聞こえた気がした





そういえばこの2年、あそこを飛び出したことはなかったなと気づく。ママとパパみたく優しくなんてしてくれないあの2人の下、何度泣いたかわからない。でも、泣けばまたとむらくんにぶん殴られる。とむらくんは泣く私が嫌いだ。泣き声が癇に障ると言って泣き止むまで私をいっぱい殴る。何度ごめんなさいと謝っても、全然許してくれない。そんなとむらくんたちの下にいて、あそこから出て行かないのも変な話だ。
私の世界はあのバーだけだったから。もう死んだことになってる私は、どこにも居場所なんてない。



たくさん歩けば、少し賑やかなショッピングモールについた。もちろんお金なんて全然持ってないけど、少しだけの小銭で可愛いリボンのヘアゴムを1つだけかった。


袋からそれを取り出せば、可愛いピンクのリボンに、心が癒やされた。同年代の友達もいなくて、機嫌の悪い日のとむらくんに暴力を振るわれて、誰も私に関心がなくて……そんな日々を忘れさせてくれるようだった。そうだよ、私、女の子だもん。オシャレだってホントはたくさんしたい。黒霧さんがくれるお洋服はすごくシンプルなTシャツとズボンだけ。いつも黒か灰色。本当はピンクが好きなのになァ。



フラフラと歩いてると、すごく可愛い靴がショーウインドウに飾られてるお店があった。可愛い、白にピンクレースがついたヒールで、まるでお姫様が履く靴みたいだ。いいなぁ、可愛いなぁ。気づけば、その店の前のベンチに座ってその靴をずっとずっと眺めていた。


「おい、馬鹿。気はすんだか?」
「え、」


ドス、と私の座っていたベンチに座り込んだ、フードのお兄さん。あぁ、間違いない


「とむらくん」
「今何時だと思ってる」
「わかんない」
「7時だ、7時」
「うそ!」


バーを飛び出たのが3時。あれから4時間経ってるなんて、血の気が引いた。絶対とむらくんに怒られる。勝手に外に出るなって前に口酸っぱく言われてたから。怖くて彼の顔を見れない。


「……ごめんなさい」
「わかってんならするな」
「だって」
「何が気に食わない?部屋もやってる、メシも食わせてる。勉強だってさせてやってる。なんの文句があってあんな暴れ散らすんだよ」
「え?」

とむらくん、私が暴れてるの知ってるの?私に興味ないのに。「当たり前だろ。俺を馬鹿にしてる?」とちょっと怒った声をしたとむらくんに、急に心がポカポカしてきた。そっか、見ててくれてるんだ。


「ほんとに、ごめんなさい」
「ま、警備員に声かけられる前でよかった。変に迷子保護されたら取り返しつかねぇからな」
「うん、ごめん」


そこではじめて顔を上げて、思わず「え」と声が漏れた

「あ?なんだよ」
「とむらくん、手は」

いつも私の前では絶対外してなかったあの手が、ない。

「こんなショッピングモールでつけてきたらそれこそ怪しまれんだろ」
「え、え」
「あ?」
「そんなにかっこいい顔してるって、知らなかった」
「……馬鹿かよ」

とむらくん、そんなかっこよかったんだね。いつも目だけギョロギョロしてて怖かったけど、素顔がわかって、なんだか距離が近づいた気がした


「それで、お前何見てたんだよ」
「あの靴。かわいい」
「どれ」
「白とピンクの、レースのやつ」

そう言えばとむらくんは珍しく大笑いして、「お前には似合わねえ」と言ってきた。ひどい!と怒れば「それは?」と私が大事に持ってた小さめの紙袋を指差す


「……なんでもない」

この流れであの可愛いリボンのヘアゴムなんて出せば、とむらくんは笑いすぎて過呼吸を起こすんじゃないかと思うから、出したくなかった


「いいからだせよ、ほら」
「あっ」
「……リボン?」
「……似合わないっていうんでしょ」

すると、とむらくんはヘアゴムで私の横髪をちょこんとしばった



「似合ってるんじゃねぇの」




全然上手にしばれてなかったけど、私にはこの一言で十分だった。


「はーー疲れた。置いてくぞ、名無し」






今名前呼ぶのは、ずるい

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