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□ハッピー クロニクル【連載中】
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「ごめんなさいね、リクードの物くらいしか、貴方の体に合う服がなかったから。」

いつの間にか、婚礼装のサローテが、二人の後ろに立っていた。

「あっ、王女様」
「サローテ、でいいわ」
慌てて居住まいを正す啓太に、サローテが微笑む。
「どう?窮屈じゃないかしら?チャズがごめんなさいね。いい子なんだけど、そそっかしくて。」
「ああ、気にすんな。」
「お、王様っ!」
仮にも一国の王女に対してとは思えない丹羽の言い方に、啓太は慌てた。
誰にでも平等に接するのは丹羽の美点の一つだが、時と場合によるのだ。
「いいのよ。まあ、これで夕べの件はおあいこ、ということでどうかしら」

にっこり。

「う…」
途端に、丹羽が苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。

昨晩の…とはもちろん、丹羽がサローテの胸を触った―わし掴んだ―一件である。

誰をも魅了する大輪の華のような微笑みで、しっかりトゲを刺す所は西園寺にそっくりで。
学園でよく見掛ける光景に、啓太は思わず小さく吹き出した。

「…けーた」
「す、すみません…くく…」
あからさまに不機嫌になった丹羽に、それでも笑いをこらえきれない。
「ったく・・・」
一人立場のない丹羽は、眉間にシワを寄せたまま、大きな溜息をついて、
癖なのだろう、指で襟元を緩めた。

「あ、」
 
ダメですよ、と苦笑して、衿を直そうと伸ばしかけた啓太の手と言葉が丹羽に届く前に、

「ダメよ。正装なんだから」

サローテの細い綺麗な指が、少し乱れた丹羽の衿を直す。

「・・・・」

その二人の姿が、まるで本当の恋人同士の…いや、仲睦まじい夫婦のようで。

啓太は胸の奥から、もやもやとした重苦い感情が沸き上がってくるのをごまかすように、伸ばしかけた手でドレスシャツの胸元をぎゅっと、にぎりしめた。

丹羽にもサローテにも他意はない。
それはわかっている。

サローテには既に、明日には式をあげる婚約者がいるのだ。
それもわかっている。


―でも、

「郁ちゃんが女だったらなぁ」

西園寺をからかう際に、よく聞いていた軽口を思い出して。
全くの別人ではあるが、目の前にいるのは西園寺と瓜二つの、文句のつけようもない美女で。また、そのきっぱりとした気性も、どことなく西園寺を彷彿とさせる。
西園寺と啓太では、抱く気持ちが全く違うのだと言われ、納得していたつもりだったが、沸き上がってくる感情はどうしようもなく。

歪んだ顔を丹羽やサローテに見せたくなくて、飲み物を取りに行くふりをして、啓太はその場を離れた。
 
 
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