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□Happy Voltage! Petit
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夏真っ盛り。
『うー…あちぃ…』
8月も半ばになり、一層ジワジワとうるさいくらいに夏を謳うセミ達の声に、
うんざりと眉をひそめ、哲也はぐったりと窓枠に腕と頭を凭れかけた。
まだ朝なのにこれでは、昼過ぎの気温など考えたくもない。
こう毎日毎日、精一杯暑くされては、体のほぼ100%が「元気」で出来ているような哲也でも辟易するというものだ。
『こんなんじゃ、プールに入る前に干からびちまうぜ』
午後から友達と学校のプールに行く約束をしているのだが、これでは外に出る気すら起きなくなってしまう。
ため息を一つついて、ふと下を覗けば、熱を持ち始めたアスファルトの道を、
見知った明るいクセっ毛が、ふわふわと通って行くところだった。
『啓太!』
思わず大きな声で呼びかけると、啓太はきょろきょろと辺りを見回してから、ようやく2階の哲也を見つけ、ぱっと笑顔になる。
『あっ、おうさまっ!』
手を振ってやると、嬉しそうにぶんぶんと振り返してきた。
啓太は今年の春、哲也の通う小学校に入学したばかりの一年生だ。
春に近所に越してきたばかりなのだが、面倒見の良い哲也に人懐こい啓太はすぐに馴染んで、
それ以来、2つも年が違うわりには、何かにつけて一緒に遊んでいた。
『出かけるのか?』
『うん!あのね、かずにぃのお家でヒマワリが咲いたんだって。だから見に来ないかって…』
面白くない人物の名前が出てきて、哲也は再び眉間に皺を寄せ、即答していた。
『俺も行く』
『えっ?』
『ちょっと待ってろ!』
啓太が大きな目をさらに丸くしている間に、帽子を引っ掴んで、バタバタと部屋を飛び出す。
勢い良く玄関のドアを開けば、夏特有のむわっとした熱気が全身を包んだ。
『ほら、これ被ってけ。日射病になっちまうぞ』
そう言って、持ってきた麦わら帽子を啓太の頭にのせてやる。
『わ』
被せてもらった帽子が落ちないように、慌てて支えた啓太の空いている方の手を掴んで、哲也はずんずんと歩き出した。