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□ハッピー クロニクル【連載中】
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きらびやかなシャンデリアが彩る宮廷の大広間。
やわらかく流れるクラシック。
等間隔で配置されている円卓には、色とりどりの旨そうな料理が並んでいる。
いずれも、この城の専属シェフが、腕によりをかけた料理達だ。


コトコトと、クリームでじっくり煮込まれた柔らかい海老の身を口にほおばって、啓太は思わず顔を綻ばせた。


修学旅行も、もう8日目。

明後日には帰国を控えた夜。
そんなせわしない中、丹羽と啓太は、ブリーズラブーンアイランドの王女、サローテの招きで、婚前のお披露目と称したパーティに丹羽と共に出席していた。

昨日、王女付きのチャズという少年侍従を助けた礼がしたい、とのことで特別に招かれたのだ。

堅苦しい場所は苦手だ、と気乗りしない丹羽と、始めは丁重に断るつもりでいたのだが、当のチャズやサローテに「是非に」と頼まれ、こうして着慣れないタキシードを纏っている。

招かれたとはいえ特にすることもなく、始めこそは緊張していたものの、日本語の通じる安心感と、丹羽が側にいるという心強さで、啓太も次第に普段通りに振る舞えるようになっていた。


「お、それも旨そうだな」

もうひとくち、と、海老を刺したフォークは、啓太の口を通り過ぎ、頭の上の口に吸い込まれた。

「…ん、ごっそさん」
「もう、王様…」
もぐもぐと口を動かしながら手首を開放した丹羽を、啓太は呆れたように見遣る。

「欲しいならトレイから取ってください」
「堅ぇこと言うなって。ほら、これもうめぇぞ?」
丹羽は悪びれもせず、旨そうな焦げ目のついた肉を啓太の口元に差し出す。
「…」
なんとなく気恥ずかしくて、啓太は少し躊躇したが、手を引っ込めそうも無い丹羽に諦め、差し出された肉を口にした。

「…あ、おいしい」
焼きたてなのであろうそれは、外側はかりっ、として香ばしく、ひとくち噛むと、じゅわっと肉汁が口内に広がり、
思わず感嘆の声をもらした啓太に、
だろ?、と丹羽が得意げに笑う。

「こんな旨いメシが食えるなら、来てよかったな。…多少のハプニングはあったけどよ」
「はは…そうですね。」
思い当たる「ハプニング」に苦笑しながら、丹羽を改めて見上げる。

「でも、すごく…似合ってますよ?」

 
丹羽は今、普通のタキシードではなく、この国の皇族用の服を纏っている。

広間に到着して間もなく、二人をもてなそうとしたチャズが躓き、持っていたカクテルを丹羽の服にぶちまけてしまい。
サローテが気を使って、換えの服を用意してくれたのだが。

「まさか、王女の婚約者の服とはな」
そう言って、苦笑する丹羽のタキシードには、衿に金糸の縁取りが施され、小さな紋章が捺されている。
王家の正礼装の証だ。
普通のタキシードとは、僅かな違いではあるものの、それだけで周りから際立って見える。

服のせいだけではなく、中身が丹羽だということも、そう思える要因だろう。

逞しい、190センチ近い長身に、生来の男らしい、精悍な顔立ち。
ともすれば、ボーイに間違われそうになる啓太とは違い、この広間にいる誰よりも堂々としていて。

二人の側を通った幾人かの来賓が、丹羽に向かって会釈をしていく。

「…ほんとの王様みたいです」

先程から幾度か繰り返される行為に、困ったように眉をひそめる丹羽には悪いが、本当にそう思うのだ。
 
 
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