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□クラウンハーツ
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だって仕方ねぇじゃねえか。

こんな店に入るのは、自慢じゃないが生まれて初めてで。
むせ返るような香りは、俺にはあんまり良い匂いだとも思えないけれど、
店内のほぼ100%を占める女性客は、色とりどりのそれに、顔を寄せてはうっとりと目を細めている。

たしかにキレイだとは思うが・・・

あー、くそっ!
なんでこんなに似たようなのばっかりあるんだよ!



「あの…贈り物ですか?」

俺がウンウン唸ってるのを見かねたのか、深緑のエプロンを着けた店員の女の子が声をかけてきた。

そっか、餅は餅屋。最初から店員に聞きゃ良かったんだ。そんな簡単な事にも気付かなかった。
それほど焦ってたって事か。…らしくもねぇ。


「あー、その、先週表に出てたヤツで…」



************

マンションの階段を二段とばしで駆け上がる。
エレベータを待ってるくらいなら、こっち方が早い。

思ったより遅くなっちまったから、待ちくたびれてるだろうな。

うっかりいつもの調子で腕を振りかけて、ばさりと悲鳴を上げる存在に気付く。

「っと、ヤベ」

慌てて肩に担いだ。

こいつのおかげで、店の中でも、帰りの電車も、客の視線が痛いのなんのって。

…まあ、でかい男がでかい花束なんか――しかも2束も――持ってたら、無理もないか。

さっきの花屋で、黄色かピンクか迷って、結局どちらも買ってきた。




自分でも、らしくねぇと思う。


花なんか正直、見分けもつかねぇし、どれだってあんまり変わらねぇだろって思ってた。

ただ先週、買物の帰りにあいつが…


『うわぁ…きれいですね…!』


…なんて、笑うから。
 
 

今日はあいつの誕生日で。

プレゼントはもうポケットに入ってるけれど。
これだけでも十分喜ぶだろうと予想は付くけれど、

帰り道、あの店の前を通った時にふと思いついた。

あの顔がもう一回見たい。なんて。

 
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