short
□クラウンハーツ
1ページ/3ページ
だって仕方ねぇじゃねえか。
こんな店に入るのは、自慢じゃないが生まれて初めてで。
むせ返るような香りは、俺にはあんまり良い匂いだとも思えないけれど、
店内のほぼ100%を占める女性客は、色とりどりのそれに、顔を寄せてはうっとりと目を細めている。
たしかにキレイだとは思うが・・・
あー、くそっ!
なんでこんなに似たようなのばっかりあるんだよ!
「あの…贈り物ですか?」
俺がウンウン唸ってるのを見かねたのか、深緑のエプロンを着けた店員の女の子が声をかけてきた。
そっか、餅は餅屋。最初から店員に聞きゃ良かったんだ。そんな簡単な事にも気付かなかった。
それほど焦ってたって事か。…らしくもねぇ。
「あー、その、先週表に出てたヤツで…」
************
マンションの階段を二段とばしで駆け上がる。
エレベータを待ってるくらいなら、こっち方が早い。
思ったより遅くなっちまったから、待ちくたびれてるだろうな。
うっかりいつもの調子で腕を振りかけて、ばさりと悲鳴を上げる存在に気付く。
「っと、ヤベ」
慌てて肩に担いだ。
こいつのおかげで、店の中でも、帰りの電車も、客の視線が痛いのなんのって。
…まあ、でかい男がでかい花束なんか――しかも2束も――持ってたら、無理もないか。
さっきの花屋で、黄色かピンクか迷って、結局どちらも買ってきた。
自分でも、らしくねぇと思う。
花なんか正直、見分けもつかねぇし、どれだってあんまり変わらねぇだろって思ってた。
ただ先週、買物の帰りにあいつが…
『うわぁ…きれいですね…!』
…なんて、笑うから。
今日はあいつの誕生日で。
プレゼントはもうポケットに入ってるけれど。
これだけでも十分喜ぶだろうと予想は付くけれど、
帰り道、あの店の前を通った時にふと思いついた。
あの顔がもう一回見たい。なんて。