short
□Snow Blossom
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「うわぁ…!桜のトンネルですよ、王様っ!」
啓太は繋いでいた手を離し、目の前に広がる満開の桜並木に駆けていく。
ここのところずっと、ぽかぽか陽気だったせいか、学園の桜もすっかり綻んで、
雲一つない真っ青な空に、淡いピンクがよく映えていた。
「転ぶなよ」
まだぬくもりの残る手をズボンのポケットに突っ込んで、いつになくはしゃぐ啓太の後を、ゆっくりと歩く。
休日ということもあって、学園の方にまで足を伸ばす生徒もいないらしく、この桜並木は丹羽と啓太の貸し切り状態だった。
啓太は、エンジのジャケットの裾を翻らせながら、風に落ちてくる花びらを飽きもせずに追い掛けている。その様子に、
「ガキ」
ぷっと吹きだした。
「何か言いました?」
「いーや、なんにも」
そうですか?と一瞬、怪訝そうに首をかしげるが、すぐに視線は戻り、今度は頭の上の、ピンクの房をつけた枝に手を伸ばす。
届かない。
「んー!」
背伸びをしてもまだ届かず。悔しかったのか、今度はぴょんぴょんと飛び跳ねだした。
「欲しいのか?」
指先が触れるばかりで、掴むには至らないその枝を、
取ってやろうと丹羽が手を伸ばしかけると、
「あっ!ダメっ!」
強い口調で止められた。
「ダメって…欲しいんじゃねえのか?」
「折っちゃダメですよ。ちょっと…届くかなって思っただけです」
最後の方はぼそぼそとつぶやくと、啓太は少し頬を染めて、バツが悪そうに目をそらした。
「再来年辺りには届くんじゃねーか?」
「王様っ!!」
引き寄せた枝房で、茶色い頭をぽふぽふとたたいてやると、啓太は真っ赤になって丹羽を睨んだ。
「ははは、んなカオしてねぇで、メシにしようぜ、メシ!腹が減ってるから怒りっぽくなるんだ」
「もう!誰のせいですか!」
ばしん、と、少し強く背中を叩かれた。