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□Canon++
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「おっし、こんなもんだろ」
会長机に最後の一拭きをして、丹羽はどっかりと椅子に腰を下ろした。
無事卒業式を終え、三年間の生徒会業務も今日で最後だ。
四月に入れば新しい生徒会メンバーが、ここでまた学園を動かしていくことになる。
その仕上げにと、生徒会室では大掃除が行われていた。
とはいえ、本来の大掃除は年末に済ませており、普段手の空いている時には啓太がこまめに片付けていたりしたため、
今日は各々の私物を処分したり、掃除機をかけたりする程度だったが。
「王様が、掃除しようなんて言い出すとは思いませんでした」
「まあ、なんだかんだで三年間世話になった場所だからな。立つ鳥跡を濁さず、って言うだろ」
いつになく整頓された部屋を見渡して、満足そうな丹羽に、
「濁すほど居てくれる鶏なら、嬉しかったんだが」
すぐに中嶋の冷たいツっ込みが入る。
きれいに洗った雑巾を干しながら、啓太も軽く吹き出した。
「お前らなぁ…」
丹羽は渋い顔をするが、それでも言い返しはしない。
こんなやり取りは今日で最後かと思うと、柄ではないが感慨深くもあった。
「あ、じゃあ俺、コーヒーでも淹れますね」
「おー、頼む」
そんな二人のやり取りに、ふふ、と笑みを浮かべていた啓太が備え付けの給湯室に向かうと、
「ああ、俺はいい」
そう言って、中嶋はPCの電源を落とした。
「そろそろ時間だからな」
「あ、もう…ですか?」
退寮期間の開始早々、中嶋はさっさと手続きを済ませ、転居先に向かうことになっていた。
何事にもあまり執着のない、中嶋らしいといえば中嶋らしいのだが、啓太にしてみれば、やはり少し寂しい。
「なんだ、伊藤は俺が居ないと淋しいのか?」
「そりゃ、そうですよ」
中嶋には転入以来、丹羽や生徒会がらみでほとんど毎日顔を合わせ、よくからかわれたりいじられたり、仕事でミスをした時などは厳しい事も言われたり。
いつも言葉や態度は率直で冷たく、優しくされたことなど、下手をしたら片手の指も余るかもしれない。
それでも、今では中嶋の優しいところも知っているし、毎日当たり前のように在った者がいなくなるのは、淋しいのだ。
目に見えてしょんぼりとした啓太に、中嶋は目を細めた。
「体が、じゃないのか?」
「な…っ!?」
「ヒデっ!!」
しんみりとした雰囲気を蹴倒すように、いつものごとくニヤリと笑んで放たれた言葉に、
意味を悟った途端、真っ赤になって固まった啓太を、丹羽が慌てて引き寄せる。
その、予想を髪の毛一筋も違えぬ反応に、
―― 本当に飽きない奴らだ。
ククッと喉の奥で笑い、じゃあな、といつもの調子で中嶋は部屋を後にした。