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□Seventh Heaven
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「いい天気ですねぇ!」

雲一つない、晴れ渡った空の青で視界をいっぱいにして、俺は思わず声をあげた。

「そうだな」
少し眠たそうな、でも嬉しそうな声で王様が同意してくれる。
投げ出された俺の脚の上から。

2月もまだ半ばだというのに、今日は朝から一気に春になったみたいに暖かくて、コートもいらない。
こんないい天気の日は、王様でなくたって、外で昼寝でもしたいと思うよ。

午前の授業も終わって、お昼ごはんもお腹いっぱい食べたし、土曜日だからこれで晴れて自由の身。
頬を撫でていく風も、今日はほんのりと暖かくて、最高の午後だった。


「道具持ってきて、釣りでもするか」
「あ、いいですね」
暖かいから、春と勘違いして浮かれた魚がかかるかもしれない。
「たくさん釣れたら、また篠宮の天ぷらが食えるな」
「そうですね!でも俊介の煮付けも外せないですよ」
「おう、それもいいな!」
王様が楽しそうに笑う。
俺もつられて笑った。

王様との釣りは大好きだ。
大漁なら最高に気分がいいし、もし一匹も釣れなくたって、王様と一緒ならそれだけで楽しい。

王様と一緒なら、何だって。



ぱた。



…王様の頬に、水滴が一粒落ちた。



ぱたぱたぱた…


2粒、3粒。

おかしいな。だって空は青いままだ。

王様がなんだか驚いた顔で俺を見ている。

「啓太…」
「え…?」



雨は、俺から降っていた。

「お、おい、どうした!?どっか痛えのか?」
「ち、ちが…!俺、なんで…っ?」
ひざ枕していた王様が慌てて体を起こして、オロオロと俺の顔を覗き込んでくる。
王様を心配させたくなくて、慌てて目を擦って止めようとするんだけど、雨粒はちっとも降り止んでくれない。

「なんで…」

だって今日はすこぶる良い天気で、
日差しはぽかぽか暖かくて、
土曜日だからもう授業もないし、
道具を揃えて、王様と釣りに行くんだ。
いっぱい釣ったら、二人でいつも通り篠宮さんを襲撃して、天ぷらを…



「っ…ふ…」


ぱたぱた


「ぅ…えっ…」


ぱたぱたぱた



「け、啓太っ!?」

ああ、ほら、王様が困った顔してる。

「やっぱ、どっか痛ぇんじゃねえのか?あー、それとも俺、またなんかやっちまったのか?なあ…っ!?」

――違う、違うんです、俺がただ…

「…め、なさ…ぃ…おれ…っく…」
王様はオロオロしながらも、辛抱強く俺の言葉を待ってくれている。
 
  俺の両肩を掴む王様の手のひらの暖かさがじんわりと伝ってきて、少し落ち着くことができた。
でも、なんだか王様の顔を見たらまた泣いてしまいそうな気がしたから、俯いたまま口を開く。

「…王、様と…」
「うん」
「…釣り、に、行ったり、ひざ枕、したり…」
「…ん」
王様は、鳴咽で途切れ途切れになってしまう俺の言葉に、丁寧に相槌を打ってくれる。


やさしいひと。

だいすきなひとと。


「‥‥ぁと、何回、こうして、いられるだろうって…思っ…たら…」

また目頭が熱くなって、視界がにじんだ。


 
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