しのぶれど
□しのぶれど
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「これは俺の運命なのだ。」
指で文字を辿りながら復唱する。
カチカチと進む針の音だけが、やけに大きい。涼しすぎる室内に肌寒さを感じ、持っている本をガラスで作られたテーブルにそっと置く。
「寒い。死ぬ。」
一人で独占するにはえらく広いリビングのソファーで丸くなり、近くにあるリモコンを掴む。
「はあ?21度?バカじゃないの?」
温度設定した張本人に悪態を付き、28度になるまで上矢印を押す。今の時代、エコだろ。腰ばっか振ってるからおつむが弱くなんだ。糞やろう。ぼけ。おたんこなす。
次から次に出てくる悪口は底がない。言えと言われれば、何時間でも愚痴れる。それ程、この部屋で住むというのは鬱憤が溜まる。
「今日は、男だったな。」
合コンだか誘われたんだか誘われたんだか、部屋に招いた人物は背の低い男だった。どっちかって言うと可愛い方に分類されると思う。背の高い僕への当てつけですか?と言いたくなるような感じの。
「はあー。早く終われや。」
空っぽの胃がギュルルと僕に訴えかける。料理なんか作れない僕はアイツにご飯を食べさせてもらっている。全てにおいて、アイツに生かされているのだ。情けないことに。
まあ、だからって何かしようとは思わないし。アイツもそれを望んでいないらしい。
「寿司食べたい。」
大きめのタオルケットに頭までスッポリ包まれ、息を深く吐き、目を閉じた。