しのぶれど
□しのぶれど
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蝶は華から華へ。
自信を胸に綻ぶ花弁は、風に揺れ、雨に濡れ、光を浴び、彩を放つ。
その香りに惑わされ蝶は舞い、人は足を止め、心を奪われ、魅了される。
そして、幾度となく踏まれても己の宿命に立ち向いながら生き抜く草を、嘲笑うかのように最期は儚く散る。
哀しみの草はひっそりと独りで泣き、知らず知らずに滅び、悲しむ者はない。
独りの草よ、蝶に愛される華が羨ましいか?
哀れな草よ、何を期待し待ち焦がれる?
道端に生える雑草よ。
芽が息吹いた瞬間に運命は決まった。
ただの緑にしかなれないおまえは、
その他の緑と同一化するだけの存在。
それでも、おまえは、 己を唯一だと信じ続ける事が出来るのか?
狭い世界の中で何をみる?
*しのぶれど*
外の世界から切り離された部屋。
僕はここから一歩も出ることができずに一生を終えるのだろうか。
それならそれで別にいい。
所詮、居ようが居まいが関係ない存在だ。
例えば、恋人から軟禁されていても、
その恋人が他人に現を抜かしていたとしても。
言ってしまえば、隣の部屋で浮気をしていようが、どうだっていいさ。
もう、別にいい、好きにすればいい。
「これは俺の運命なのだ。」
まさにその通りだった。
恋愛長編小説に書かれた一部。
主人公が波乱万丈な人生を歩みながらも、愛する人を見つけ、お互いの手を取り合って幸せな日々を送る中でのヒロインの突然の死。悲しみに暮れる主人公が呟いた言葉。
まるで、僕の心を代弁しているようだ。
抗うことのできない運命(さだめ)。
押しては返す波に揺られながら流れる浮遊物のように。